はじめに
M&Aの買い手が、非上場企業やオーナー系上場企業を買収対象とする場合(事業承継型M&A)は、その事業がファミリービジネス又はそれに近い性質を有していることを踏まえて、通常の企業を買収する場合とは異なる考慮が求められる。ファミリービジネスについては、家族内の統治のあり方(ファミリーガバナンス)が、様々なかたちで議論されているところであるが、本稿では、それが今後のM&Aの実務にどのような影響を与えるかという点について、若干の考察を試みたい。
親族内承継の選択肢の広がり
事業承継を行うにあたっては、創業家が、大きく分けて、(1)親族内承継と、(2)M&Aによる第三者への売却、という二つの選択肢を有している。その選択にあたっては、親族内に後継者候補がいるか否かという点がまず重要になってくるが、その他にも、以下のようなメリット・デメリットを比較しているケースが多いと思われる。
まず、(1)親族内承継を行う場合、(A)他の親族に対して、株式の全部又は一部を相続・生前贈与により承継させ、又は税務上の時価で売却したり、(B)((A)に加えて)株式の一部を租税特別措置法40条の特例を用いて非課税のまま非営利財団に寄附する、といった手法がよく用いられている。しかし、(A)のうち、相続・生前贈与の場合は、相続税・贈与税の負担が過大になり、納税のためのファイナンスが必要となったり、遺留分の問題を回避できないといった問題が生じることがある。また、(A)のうち、売却の場合は、売り手においてキャピタルゲインへの課税があり、また、買い手において買収資金を調達するためのファイナンスが必要となる場合がある。さらに、(B)についても、(寄附された株式について課税の問題は回避できるものの)創業家の事業への支配が弱まってしまうといった問題や、創業家が対価を得ることができないといった問題がある。
一方で、(2)M&Aについては、