[M&A戦略と法務]

2020年9月号 311号

(2020/08/17)

M&Aと有価証券報告書等の虚偽記載による訴訟リスク

~損害論を中心に~

髙山 崇彦(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
原田 紗衣(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1 有価証券報告書等の虚偽記載によるリスク

 会社が有価証券報告書等の記載内容を訂正し、それが不祥事案件として広く報道された場合には、当該会社の株価は値下がりするのが通常であり、これにより損害を被ったとして、株主(以下「投資者」という)が当該会社(以下「発行会社」という)及びその役員に対して損害賠償請求訴訟を提起する事例が増えている。このような類型の損害賠償請求のうち、M&Aに関するものとしては、株式交換等によるM&Aの過程で本来計上することができない株式の売却益を連結売上高に計上するなどした結果、有価証券報告書等の虚偽記載を理由に投資者から損害賠償請求訴訟を提起されたライブドア事件や、有価証券投資等の含み損を解消するためにM&Aの買収資金を複数のファンドを通す方法により損失計上を先送りするなどしていた結果、有価証券報告書等の虚偽記載を理由に投資者から損害賠償請求訴訟を提起されたオリンパス事件等がある。

 一般的に、有価証券報告書等に虚偽記載があった場合における発行会社及びその役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者。以下同じ。)に生じるリスクは、以下のとおりである。

ア 民事責任(損害賠償責任)を追及されるリスク
イ 刑事責任を問われるリスク(金融商品取引法(以下「金商法」という)197条、207条)
ウ 発行会社に対して課徴金納付命令が出されるリスク(金商法172条の4)
エ 発行会社が取引所から上場契約違約金の支払いを求められ、上場廃止となるリスク(有価証券上場規程(東京証券取引所)509条、601条1項等)

 本稿においては、これらのうち、読者の関心が高いと思われる民事責任について、裁判実務上、争点となることの多い損害論を中心に概説する。


第2 民事責任(損害賠償責任)の根拠規定

 投資者が、発行会社又はその役員に対して、有価証券報告書等の虚偽記載を理由として民事責任を追及する場合における法律構成は、以下のとおり複数存在する。

ア 不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条)
イ 代表者の行為についての損害賠償請求や役員の第三者に対する責任の追及(会社法350条、429条等)
ウ 金商法の開示規制に関する損害賠償請求(金商法21条の2、25条1項4号、24条の4、22条1項等)

 これらのうち、アの不法行為に基づく損害賠償を請求するためには、投資者において、(a)故意又は過失の存在、(b)行為と損害との間の相当因果関係及び(c)損害額を立証する必要がある。しかし、発行会社の外部者である投資者がこれらの事実を立証するのはハードルが高い。そのため、実際の訴訟においては、投資者の立証責任が緩和されているウの金商法に基づく請求を中心に争われることが多い。

 そこで、以下では、金商法に基づく請求に関する主な論点を整理する。なお、本稿では、実務上、問題となることの多い流通市場での投資者による責任追及を念頭に置くこととする。

1 発行会社の損害賠償責任

 発行会社は、

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