本寄稿は、M&A専門誌マール 2020年10月号 312号(2020/9/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
1. はじめに
KPMGでは日本とASEAN諸国のオフィスが連携して、公表情報をもとにM&A市場の現況を定点観測しています。8月上旬にも
直近のレポートを発表しました。本稿では、成長を続けてきたASEANのM&A市場につき、コロナ禍の影響を踏まえた直近の市場動向を概説し、今後のシナリオについて予測を行います。
2. 2019年までのASEANの経済動向概観とM&Aの傾向
(1) 2019年まで、多くのASEAN諸国は高いGDP成長率を維持し、ASEAN域外から投資を呼び込むための外資誘致策を打ち出して、経済活動の更なる活発化をはかってきました。特に2019年は、日中韓を中心とする域外の国との包括的経済協定の議論をASEAN全体として推進しました。また、米国との対立が本格化した中国からの生産拠点移管を呼び込むため、タイ、マレーシア、インドネシアでは製造業を対象とした外資誘致策を打ち出しました。加えて、財閥を中心にASEAN域内の加盟国間投資を活発化させるなど、ASEAN経済統合の積極的強化を進めてきました。
(2) ただ、ASEAN諸国が全て同じ方向を向いているかというと必ずしもそういうわけでもありません。ベトナム、インドネシア、フィリピン等は引き続き製造業の誘致を目指す動きを継続しています。一方で、タイでは、これまで日本企業を中心に外資製造業を誘致し経済成長を遂げてきたものの、新産業の育成は遅れており、労働人口増加の鈍化に伴う人件費高騰にも悩まされていることから、労働集約的な産業は所謂CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の周辺国へ移管し、資本集約的な付加価値を生みだしやすい分野をタイに集積するよう動いています。似たような傾向は、一人当たりGDPが中程度に達しているマレーシアなどの中進国にも見られます。
(3) かかる状況下、2019年のASEANにおけるM&A市場は、第1四半期から第2四半期にかけて