デロイトトーマツコンサルティングによる新連載「企業変革手段としてのM&Aの新潮流」が始まります。本連載では、新しいM&Aによって変革を実現している、最先端のアプローチ・事例を、『ポートフォリオ変革』の視点、『新規事業を創る』、『古い領域からのリソース開放』の視点、『デジタル変革』の視点、『変革を目的とした、ディール推進・
PMI』の視点、そして、『継続的な変革を支える、グループとしての体制構築・ガバナンス』の視点から、それぞれ紹介していただく予定です。これに先立ち、第1回は、デロイトトーマツグループ CSOの松江英夫様に、コロナ禍の日本経済と日本企業が直面している問題、経営者に突き付けられている課題、企業変革とM&Aについて語っていただきます。
1. コロナ禍の日本経済と日本企業が直面している問題
『未知』の社会トレンドが加速度的に進展
-- 世界的なコロナショックで日本経済は未曾有の環境変化にさらされています。
「昨今、業種を問わず、事業環境を根本的に改変してしまうような社会トレンドが加速度的に進展しています。かつ、それらはだれもが経験したことのない『未知』の社会トレンドとなっています。経済においては、全体の需要が落ち込み、かつ、その需要はもう戻ってこないかもしれないという中にあって、企業は生き残りのために様々な構造転換を図っていかなければ、環境変化に対応できないまま競争力が低下していく状況下にあります。
まず、既存事業そのものの構造改革が必要です。需要が低減した中でも利益を出し続けられるよう大幅なコスト構造改革、収益構造改革を進めることが非常に重要な問題になっています。そういう中で不採算の事業、もしくは将来的に収益に貢献できない事業については積極的に切り離していく、売却していく必要性がでてきています。これは資金の確保と裏表であり、そういったことがよりシビアに進行しています。
新しい成長に向けての構造変革では、デジタルトランスフォーメーション(DX)をこれまで以上に加速させていく必要があります。単にオペレーションの改革だけではなく、まさに会社の構造そのものを、デジタル化を通じて大きく変えていく必要があるのです」
コロナ禍は、企業に自らの存在意義そのものを再定義する機会を与えた
「そういった流れに加え、特にポストコロナを見越して、企業から事業ポートフォリオのトランスフォーメーションについての問い合わせや相談が増えてきています。ポートフォリオトランスフォーメーション(PX)がこれほどまでに経営者の中心課題になり、外部資源の取り込みを厭わないほど改革に迫られている、こういった潮流はこれまでになかったことです。これは何を意味しているか。先ほど申し上げたように、既存の事業の需要が戻ってこないとすれば、会社の事業構成そのものを変えていく必要があります。既存事業はよりスリム化して構造改革を行うと同時に、既存事業を含む全体の事業構成のあり方を見直していかないと持続的な成長につながらない。コロナが事業ポートフォリオ改革を大きく加速させる要因になり、企業に自らの存在意義そのものを再定義する機会を与えたのではないでしょうか。その再定義は、自社が成し遂げたい『パーパス』(目的)を鮮明に打ち出して行動する『パーパスドリブン』という会社の存在意義そのもので、実際にその『パーパス』を実現するためのビジョンとしてどういう事業領域でどういう社会的な価値を出していくのか、まさに事業の構成そのものを再定義していくことであり、これがまさにPXにつながるわけです」
エリアもセクターも回復の差はまだら模様
「世界経済は、各エリア、各セクターと、地球環境問題を含めた環境的な要因、それぞれの観点で大きな変化が出てくると思います。エリアでは、欧米に比べてアジアの回復の立ち上がりが比較的早かったのはご承知の通りですが、今後、欧米の回復速度が高まり、グローバル全体として回復してくるとしてもエリアや国の差は依然として色濃く残ると思われます。
セクターに関していうと、『人』の動きは制限されていますが、『人』の移動に関わる『物』という部分では、車などは徐々に動き始めており、『物』に関わる製造業ならびに半導体はじめテクノロジー産業に関しての回復は早いが、一方で非製造業、特に飲食など、『人』の動きの制限の影響を受けやすいセクターに関しての回復は遅いと、セクター間でも回復のばらつきが出てくるため、まだら模様の様相で、これらは比較的注意深く見ていく必要があります。今後、コロナの第4波の状況やワクチン接種による抑え込み効果などによって影響されるところはありますが、年の後半以降に全面的な回復に至るかどうか不確実な状況は当面続いていくだろうと思います。
金融については、