[ニューノーマル時代の日本企業M&Aの指針]

2021年12月号 326号

(2021/11/10)

第12回(最終回) グローバルベネフィットガバナンス

北野 信太郎(マーサー ジャパン グローバルクライアントマネージャー シニアプリンシパル)
  • A,B,C,EXコース
ベネフィットは単なる福利厚生に非ず

 日本のいくつかのグローバル企業でも見られるようになったが、特に海外では「トータル・リワード・マネジャー」という役割を目にすることがあると思う。「トータル・リワード」とは日本語で総報酬と訳されることが多いが、海外では一般に「Compensation and Benefit」と同義とされる。つまり、総報酬のうち金銭報酬(Compensation)でない部分を指して、「ベネフィット」と呼んでいる。

 このベネフィットという言葉であるが、和訳する際には「福利厚生制度」とするのが定訳となっている。確かに、日本でも本人や家族に対する非金銭報酬を指して(法定外)福利厚生制度と呼ぶこともあるため、定義として近いといえば近い。一方、海外でベネフィットと呼ぶ場合は、文字通り「その企業で働くことによって生じる、金銭報酬以外の便益」を全て指すと解釈される。つまり、日本では通常福利厚生制度として含めない、例えば経験やスキル、社会貢献などを通じて得られるやりがいのようなものも、海外ではベネフィットに含まれる。そのため、買収した海外企業に対して、日本の福利厚生制度の感覚でベネフィット制度を扱うと、その意識のギャップに驚かせられるだろう。

 一例としてボーイングの採用ページ(注1)を見ると、トータル・リワードの区分として、Compensationの他に、Life、Career、Financial security、Health、それにCommunityなどと分類されている。LifeやFinancial security、Healthなどは日本の福利厚生制度でもよく目にするが、キャリア開発やコミュニティへの貢献などもベネフィットの一部として位置付けていることが理解できる。


M&Aの際に何を見ればよいのか

 デューデリジェンス時にターゲットのベネフィット制度を調査する際、何に留意すべきだろうか。大別すると、①ベンダーマネジメントとスタンドアローン・イシューの有無、②債務性の確認、そして③報酬哲学から導き出されるカルチャー、の3つに分類できると思う。

 ベネフィット制度の大きな特徴として、給与計算やITシステムと同様、外部ベンダーを利用することが多い。そのため、

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