[寄稿・寄稿フォーラム]

2022年10月号 336号

(2022/08/29)

日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する

――株主提案数は過去最高も、盛り上がりに欠ける結果に

菊地 正俊(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフ株式ストラテジスト)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2022年10月号 通巻336号(2022/9/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。

世界のアクティビスト活動の約6割は米国で

 Lazardの集計によると、2022年上期に世界のアクティビスト・キャンペーン数は前年同期比34%増の126件と2018年上期以来最高になったが、アクティビスト活動の過半数は北米で行われている。日本はアクティビストの投資対象になった企業数が米国、オーストラリアに次いで世界3位であるが、小さなキャンペーンが多いため、日本を含むアジア太平洋地域が世界のアクティビスト・キャンペーン数に占めるシェアは17%にとどまる(図表1)。

 バリューアクトはオリンパス(7733)とJSR(4185)に社外取締役を送り込むことに成功した。両社とも株式市場から評価される事業ポートフォリオの見直しを行ったが、エリオットやサードポイントなどの米国大手アクティビストは最近、日本市場で音沙汰がない。(1)日本企業は依然として株式持合が多い、(2)国内機関投資家の株主提案への賛成率が低い、(3)日本語でキャンペーンを実施しなければならないのでコスト高になる――ことなどが欧米大手アクティビストの参入が増えない理由だろう。

 一方、任天堂(7974)の創業家の運用会社Yamauchi-No.10 Family Officeが、インフロニアHD(5076)による東洋建設(1890)へのTOBに介入したため、新興のアクティビストとみなす向きもあった。日本株に投資しているアクティビストはAUM(運用資産規模)が小さいため、ターゲットになるのはほとんどが中小型企業である。日本ではPBRが1倍を割っている企業が依然約半数あり、ROEも国際比較で低いので、持合解消が進み、アクティビストと国内機関投資家との対話が進めば、アクティビストの活動余地は大きいだろう。

図表1 アクティビストのキャンペーン件数の地域別比率の推移
図表1 アクティビストのキャンペーン件数の地域別比率の推移

注: データは、キャンペーン発表時に時価総額5億ドル以上の企業に対してアクティビストがグローバルに行ったキャンペーンを示す。発表時の時価総額が5億ドル未満の一部のキャンペーンには、COVID-19パンデミックによる市場低迷期に行われたものを含む。キャンペーンのプロセスの一環としてスピンオフした企業は別にカウント。出資比率および投下資本は、デリバティブを通じたポジションを反映していない場合がある

出所: Lazard “H1 2022 REVIEW OF SHAREHOLDER ACTIVISM”よりみずほ証券エクイティ調査部作成

世界の主要アクティビスト

 日本に投資する主なアクティビストを図表2に示した。世界最大のアクティビストは、米国の投資家であるポール・シンガー氏によって設立されたエリオットである。エリオットはHPに1977年創業、2022年6月末時点でAUM557億ドル(1ドル=130円換算で約7.2兆円)、499人の社員などと掲載している。エリオットは巨大なので、運用戦略も株式、PE、プライベート・クレジット、ディストレス債券、ヘッジ・アービトラージ、イベント・ドリブン、不動産、コモディティ、ボラティリティ取引など様々な取引を行う。日本株投資も担当者が変わると、戦略が変わる印象だ。

 以前は香港から日本株に投資していたが、担当者がいなくなり、その後ロンドン経由になったようだ。2020年にソフトバンクグループ(9984)に投資して以来、マーケットから音沙汰がなくなった。欧米の大手アクティビストは運用資産が大きいので、ターゲットとする企業も大きくなる一方、日本のアクティビストはAUMが小さいので、中小型株をターゲットにしやすい。

 エリオットは2021年に薬品セクターの中で、同業他社比で株価がアンダーパフォームしていた英GSKに対して経営陣刷新や事業再編を求めた。エリオットと並んで、東芝に対して社外取締役を送り込んだファラロンは1986年創業で、運用資産は422億ドル(約5.5兆円)と報じられている。投資先に対する姿勢はエリオットの方がファラロンよりアグレッシブのようである。エリオットのエンゲージメントがソフトバンクグループの大規模な自社株買いにつながったとみられる一方、ファラロンが過去5年に東芝以外で大量保有報告書を提出したのはアイリックコーポレーションだけである。ファラロンはロー・プロファイルを維持しているようであり、投資先があまり報じられない。

 サードポイントも2019年にソニーグループ(6758)に2度目の株主提案をした後、日本株で音沙汰がない。サードポイントは2021年に株価がアンダーパフォームしていたインテルのCEO交代で大きな役割を果たし、英国シェルに会社分割を求めた。サードポイントはグロース株への投資で失敗し、今年上期の運用パフォーマンスが-20%になったと報じられている。欧州最大級のアクティビストである英TCIに至っては、2007年に電源開発(9513)に対する投資が外為法に抵触し、撤退して以来、日本株では存在感がなくなり、欧州で環境アクティビスト活動を中心に行っている。

図表2 日本株に投資する主なアクティビスト
ファンド名地域推計AUM
(10億円)
出所主な提案内容主な投資先
エリオット・マネジメント米国6,695HP株主還元、スピンオフ東芝、ソフトバンクグループ、アルプスアルパイン
ファラロン・キャピタル米国5,486Web資本政策の見直し東芝
ブランデス・インベストメント米国2,834HP持合解消、株主還元双葉電子、タチエス、小森コーポレーション
キングストリート米国2,600HP自社株買い東芝
サードポイント米国2,249Webスピンオフ、取締役選任ソニーグループ、セブン&アイ・HD、スズキ
フランチャイズ・パートナーズ英国2,054Web選択と集中キリンHD
シルチェスター英国1,900HP資本効率性改善地銀、住友大阪セメント、奥村組
バリューアクト米国1,716Web事業再編、取締役選任オリンパス、JSR、セブン&アイ・HD
スパークス・グループ日本1,517HP増配、取締役任期短縮ワコム、MARUWA、帝国繊維
RMB Capital米国1,339HPスピンオフ、役員選任三陽商会、フェイス、スペースシャワー
エフィッシモキャピタルシンガポール1,100推計取締役選任、株主還元東芝、リコー、川崎汽船、第一生命
ファーツリー米国650Web取締役選任、自社株買いJR九州
ダルトン・インベストメンツ米国377HP役員選任、事業再編天馬、エイベックス、新生銀行
タイヨウファンド米国455HPIR改善、株主還元アニコムHD、NISSA、ラクーン
オアシス香港300推計定款変更、リストラフジテック、片倉工業、マネックスグループ
村上ファンド系シンガポール300推計株主還元、TOB西松建設、セントラル硝子、山梨中央銀行
3D Investment Partnersシンガポール200推計ガバナンス改善東芝、富士ソフト、デジタルHD
AVI英国190HP持合解消、株主還元日鉄ソリューションズ、TBS HD
LIM Advisors米国100推計株主還元、定款変更テレビ東京HD、平和不動産
Yamauchi No.10 Family Office日本100WebM&Aアービトラージ東洋建設
ストラテジックキャピタル日本30推計自社株買い、持合解消ワキタ、極東貿易、世紀東急
Nippon Active Value Fund英国22HP株主還元、役員報酬荏原実業、石原ケミカル、日本電計
ヒビキ・パスシンガポール20推計取締役選任、株主還元三陽商会、日本コンセプト
Monex Activist Fund日本19HP資本効率性改善ジャフコ、NIPPO

注: 運用資産の「出所」のHPは運用会社による開示、WebはWeb上の報道、推計はみずほ証券エクイティ調査部推計。1ドル=130円換算。データ時点はファンドによって異なる。主な投資先リストは推奨銘柄でない

出所: 各種資料、会社発表、ヒアリングよりみずほ証券エクイティ調査部作成

アクティビストの評判の日米格差

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