[視点]

2022年11月号 337号

(2022/10/12)

大企業のM&Aと中小企業のM&A―もしくは国際会計基準と中小会計要領―

山本 昌弘(明治大学 商学部 教授)
  • A,B,EXコース
簡易デューディリジェンスとしての時価会計

 近年、大企業・中小企業ともにM&Aが増加している。株式上場している大企業では、資本市場で株式を過半数所有すれば非友好的なM&Aであっても成立する。一方圧倒的多数を占める中小企業は、株式譲渡制限がかかっているため、譲渡側・譲受側双方の合意に基づいてはじめてM&Aが成立する。中小企業庁は、2015年に事業引継ぎガイドラインを策定し、後継者がいない企業において事業承継を推進するための選択肢としてM&A制度の整備を開始した。その後2020年に中小M&Aガイドラインへと大幅改訂し、2021年には中小M&A推進計画を策定した。

 大企業と中小企業の違いは、会計基準に典型的に見られる。上場大企業では国際会計基準(IFRS)の採用が増加している。国際会計基準の特徴は、決算時に資産を公正価値で再評価する時価会計にある。市場性のある金融商品を時価評価し、事業用の固定資産や棚卸資産は帳簿価額よりも時価が下落したときに減損処理する。固定資産の時価による再評価も認めている。財務諸表や注記における上場企業の時価開示は、友好的・非友好的を問わずM&Aを検討する際に簡易的なデューディリジェンス(DD)を実施するのと同じ情報価値を提供してくれる。

 日本の企業会計基準も国際会計基準との国際統合を進め、時価会計の色彩を強めている。これらの会計基準が投資家にとっての意思決定有用性を重視しているのは、究極的にはM&Aを検討する際の潜在的な企業価値を低コストで広く開示させることにある。国際会計基準は、世界の投資家に受容されている。もちろん具体的にM&Aに取り組む際には、詳細なDDが実施される。

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