[寄稿]

2023年3月号 341号

(2023/02/09)

M&A対象会社にかかるサードパーティリスクの把握と管理態勢構築のあり方~スタンドアロン価値の維持~

萩原 卓見(KPMG FAS 執行役員パートナー)
山田 茉莉子(KPMG FAS シニアマネージャー)
杉山 裕紀(KPMG FAS シニアマネージャー)
  • A,B,EXコース
1 はじめに~M&Aにおけるサードパーティリスクの重要性の高まり

 AIやIoTなどの情報技術の発展及びグローバル化が進み、厳しくなる競争環境に対応するため、サプライチェーンの最適化や付加価値の創出を目的として、多くの企業で自社の商流の見直しや新たなビジネスパートナーとの提携・協業などの取り組みが進められている。

 こうした取り組みは、企業のリスクプロファイルにも影響を与える。特に、取引先、委託先、再委託先、提携・協業先などの取引関係者(以降「サードパーティ」)によってもたらされるリスクは、信用リスク、業務継続リスクや法規制・コンプライアンスリスクなどに加えて、サプライチェーン上の人権に関するリスクやサイバーリスクなど多岐にわたる。実際に、サードパーティの起こしたトラブルによって、自社業務の停止、多額の対応コスト、罰金の支払いなどの直接的な損失や利益の逸失だけでなく、レピュテーションへの被害を受ける事案が多数生じている。こうした問題は、子会社で発生したものであっても、株価の下落などを伴い、親会社が説明責任を問われ、企業グループ全体へ影響を及ぼすことが多い。

 このようなサードパーティに関連するリスクは、通常の事業における取引先のみならず、M&Aの場面における買収を検討している相手先にも生じ得る。M&Aの実施後、対象会社やその関連するサードパーティによる贈賄、情報漏洩などのコンプライアンス上の問題が発覚し、グループ全体への企業価値への負の影響が生じている事案も見られる。

 以上の背景を踏まえ、本記事では、M&Aにおけるサードパーティリスクの対策を中心に解説する。

2 サードパーティリスクとは

 まず、本記事でのサードパーティは、商品・サービス提供に関与する自社及び顧客以外の関係先を指している。具体的には、サプライヤー、物流業者、委託先などのほか、販売先、業務提携先、サービスプロバイダー、外部専門家なども含み、それらの再委託先なども含まれている。

図表1:サードパーティとは
サードパーティ

*黒の太枠で囲まれているのが当記事のサードパーティの範囲

 これらのサードパーティが自社にもたらすリスクは「サードパーティリスク」と呼ばれ、その領域は多岐にわたる。個々のサードパーティリスクは、サードパーティが関与する自社の業務における重要性やサードパーティから提供されるサービス内容、適用される法規制、情報資産や施設などへのアクセスの有無などによって、その影響度や対応策は異なってくる。そのため、企業としては、自社のバリューチェーンへのサードパーティの関与の度合いや、サードパーティの関与による潜在的なリスクを把握し、自社にとって重要なリスクのサードパーティを特定し、リスクの大きさに見合った対策を講じることが求められる。

図表2:サードパーティリスクの例
サードパーティリスク

3 サードパーティリスク管理で見られる課題

 サードパーティによるトラブル事例は増加傾向にある。KPMGが実施した2022年の調査(世界の6つのセクターと16の国・地域及び管轄区域にまたがる1,263人のサードパーティのリスクマネジメント(以下「TPRM」とする。)の上級管理者を対象に実施)の結果、回答企業の73%が過去3年以内に少なくとも1回はサードパーティによる重大なトラブルを経験したと回答した(注1)。また、同調査結果では、回答企業の85%が、TPRMが戦略的優先事項であると回答しており、TPRMの重要性が高まっていることが分かる。 しかし、多くの企業では、TPRMに関しては、以下のような課題が見受けられる。


■筆者プロフィール■

萩原 卓見(はぎわら・たくみ)萩原 卓見(はぎわら・たくみ)
KPMG FAS 執行役員パートナー/金融セクター
2008年にKPMG FASに入社後、金融機関を中心に様々な企業に対して、マネー・ローンダリング・テロ資金供与防止体制、不正リスク管理体制、贈収賄防止管理体制、サードパーティリスク管理体制等の各種リスク・コンプライアンス管理体制の整備・構築、運用、高度化の支援を行っている。また、不正調査・再発防止策の策定支援、M&A時のコンプライアンス・デューデリジェンスや、サプライチェーン・デューデリジェンス等のサービスも提供している。KPMGに入社前は、メガバンクや損害保険会社において事務リスク管理業務、コンプライアンス業務、営業企画等の業務に従事。

山田 茉莉子(やまだ・まりこ)山田 茉莉子(やまだ・まりこ)
KPMG FAS シニアマネージャー/フォレンジック
英国勅許会計士
医薬品、製造業等幅広い業種において、国内およびクロスボーダーの財務、セパレーションデューデリジェンス業務及び売買契約書に関するアドバイス業務等を提供している。また、クロージングに関する支援・DAY1体制構築支援などのPMI業務にも従事している。現在は、主に、フォレンジック×Deal関連業務、グローバルガバナンス体制構築、サードパーティリスク管理等に従事している。

杉山 裕紀(すぎやま・ゆき)杉山 裕紀(すぎやま・ゆき)
KPMG FAS シニアマネージャー/フォレンジック
公認会計士、公認情報システム監査人(CISA)、公認不正検査士、中小企業診断士。
2006年にあずさ監査法人(現:有限責任 あずさ監査法人)に入所。2013年よりディールアドバイザリー業務に従事。直近では、フォレンジック×Deal関連業務、ガバナンス体制構築、サードパーティリスク管理等に従事している。

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