[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2023年8月号 346号

(2023/06/19)

第220回 消費者信用業界 ~独立系消費者信用会社の「次の一手」に注目~

久保 英次(S&Pグローバル・レーティング・ジャパン 金融法人および公的部門格付部 主席アナリスト)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2023年8月号 通巻346号(2023/7/18発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。

はじめに

 過去20年間、消費者信用業界(注)、とりわけ消費者金融業界は、規制変更による収益性低下と市場規模の縮小、世界金融危機による流動性危機、パンデミックによる収益減少と苦難の連続であった。また、長期的・趨勢的な観点からは人口減少による市場規模に対する下方圧力が強まっている。とはいえ、家計における資金需要および経済主体間の資金決済需要は時代、地域を問わず常に存在する。そのため、消費者信用会社の果たす役割は、その時々の技術水準によって表面的なあり方は変わるものの、本質的には不変である。消費者信用会社は様々な施策を実施することで消費者金融事業を維持している。また、総量規制等の規制対象外である銀行による消費者金融事業拡大に伴い、保証事業を拡大するなど新たな収益源を拡大している。さらに、現金のデジタル化やキャッシュレス関連市場は依然として発展段階にあり、消費者信用会社の既存業務・関連業務に係る経営資源を有効活用できる類の市場拡大可能性を秘めている。本稿では1990年代後半以降の消費者信用業界の歴史を簡単に振り返り、現在の状況、今後の方向性について考察する。

(注)本稿では消費者信用は主に消費者金融、包括・個別割賦販売を含む、個人に対する無担保与信行為を意味しており、こうした行為を営む主体としては主に消費者金融会社、カード会社、信販会社を想定している。

1990年代終盤から2010年頃まで

~規制変更、銀行の法人向け貸し出し需要低下が業界再編を促進

 まずは1990年代終盤から2010年頃までを振り返る(図表1)。バブル崩壊後の景気低迷が続く中、以前より存在した消費者金融事業者への批判がさらに高まりつつあり、特に高金利、過剰融資、過酷な取立に対して世間から厳しい視線が向けられた。また、従来の高収益性の源泉であった債務者のリスクに見合った超高金利での貸付についても、1983年貸金業規制法・改正出資法成立・施行時の上限金利の年109.5%から、上限金利は段階的に、しかし大幅に引き下げられた(注2)。こうして超高金利市場は表向き徐々に消滅していった。

(注2)109.5%(制定時、1954年)→73%(1983年)→54.75%(1986年)→40.004%(1991年)→29.2%(2000年)

 他方、従来銀行からの融資に資金調達を依存し脆弱であった資金調達構造は、資産の流動化に関する法律、ノンバンク社債法の成立により直接金融による資金調達手法は多様化していった。しかしこうしたプラス要素は収益性の大幅悪化を緩和する材料とはならなかった。こうして、長年高金利による高収益性を謳歌してきた消費者信用会社の貸金業務は曲がり角を迎えていた。

 とはいえ、消費者信用業界は20%を超える利ザヤを背景に、国内銀行に比較して依然高い収益性を維持していた。バブル崩壊以降3つの過剰(雇用、設備、債務)の処理に苦しむ国内事業会社の投資意欲は低く、大企業向け銀行与信の需要は減少し続けた。そのため、国内銀行にとって、相対的に収益性の高い消費者信用業に参入するインセンティブは高まり続けていた。同時期に、行政サイドでは金融システム改革(いわゆる「日本版金融ビッグバン」)実現に向け、規制撤廃・緩和を推進していた。日本版金融ビッグバンの進展にともなって、1997年に独占禁止法が改正されて持ち株会社が解禁となった。さらに金融持株会社関係2法も制定され、金融持株会社の設立が可能になり、銀行、証券、信託、保険などの異なった種類の金融業の相互乗り入れと、金融の再編成が急加速した。

 こうして、子会社方式での消費者信用市場への参入が解禁となった。上記の規制環境の変化の中、資金調達の安定化と信用力向上を必要とする消費者信用会社と、与信ノウハウ獲得によりリテール金融における収益性向上を目論む銀行の双方の利害が一致し、2004年にはメガバンクグループと消費者信用会社の資本・業務提携が多数実現した。

 しかし、その後間もなくして様々な外生的ショックが消費者信用会社を襲った。2006年、最高裁判所がみなし弁済を否認する旨の判決を下した。また、貸金業法の改正により上限金利20%(貸付残高による)まで段階的に引き下げ、総量規制の導入が2010年に導入されることとなった。同年には改正割賦販売法も完全施行され、債務者の返済能力に見合った極度枠の設定、年収調査義務が課された。上限金利引き下げ・総量規制により消費者信用業界の収益力はさらに低下し、貸金残高は縮小の一途を辿った。

 最も致命的であったのは、みなし弁済否認による巨額の過払い金返還請求に伴う債権放棄や利息返還損失引当金の計上が消費者信用会社の財務基盤を蝕んだことであろう。さらには、2008年9月以降の世界金融危機による経済環境の大幅悪化や監督当局による業者の行政処分による営業自粛などにより、消費者信用会社の業績はこの時期大幅に悪化した。

 その結果、大手・中堅の消費者信用会社破綻が相次いだ。大手銀行グループによる財務支援・再編・銀行グループの傘下入りすることで一部大手消費者信用会社は生き残った一方、独立を維持した大手消費者信用会社も少数ながら存在した。

【図表1】1990年代終盤以降の消費者信用業界の主要事象
西暦主要事象アイフルアコムジャックスオリエントコーポレーション(オリコ)クレディセゾン
1997独占禁止法が改正されて持ち株会社が解禁。金融持ち株会社関係2法制定、翌年施行。     
1998資産の流動化に関する法律制定。

GEキャピタル傘下のGEコンシューマー・クレジット(当時)がレイクの事業を承継。
     
1999ノンバンク社債法制定。     
2000出資法改正による上限金利の40.004%から29.2%への引き下げ。     
2001資産の流動化に関する法律改正。更生会社株式会社ライフの株式を取得し、子会社化。    
2004プロミスとSMFGが業務・資本提携。

住友クレジットとさくらカードが合併、社名を三井住友カードに変更。

アプラス、(SBI)新生銀行の連結子会社化。
 MUFGと戦略的業務・資本提携、持分法適用関連会社化。 MHFGとの資本・業務提携発表。MHFGとの包括提携発表。みずほ銀行、ユーシーカードとクレジットカード事業における戦略的業務提携に基本合意。

りそなホールディングスと戦略的な資本・業務提携に合意。
2005貸金業制度等に関する懇談会開催。

UFJカード(三菱UFJニコス)、日本信販と合併、UFJニコスに商号変更。

楽天カードがKCカードを買収、子会社化。
   伊藤忠商事と資本・業務提携。

ユーシーカードのみずほ銀行向け無担保個人ローン保証事業を、吸収分割により承継。
ユーシーカードに資本参加。
2006最高裁が貸金業規制法の「みなし弁済」を認めない判決。

改正貸金業法が可決・成立。

金融庁がアイフルに、業務停止命令。

金融庁が三洋信販に、業務停止命令。
   楽天KCのクレジット事業部門を承継。ユーシーカード会員事業を吸収。
2007クレディア、民事再生法の適用申請。

(三菱)UFJニコス、DCカードと合併、三菱UFJニコスに商号変更。
  MUFGと業務・資本提携に係る基本合意を締結。会社へ。プロセシング業務をUCグループの同業務を担うキュービタスへ事業分割・譲渡の上、業務委託。プロセシング業務をUCグループの同業務を担うキュービタスへ事業分割・譲渡の上、業務委託。
2008割賦販売法・特定商取引法改正(2010年完全施行)。

アエル、東京地裁へ民事再生法適用申請。

GEコンシューマー・ファイナンスは(SBI)新生銀行子会社となり翌年新生フィナンシャルへ社名変更。

三菱UFJニコス、MUFGの完全子会社化。ジャックスへ個品あっせん事業承継。
 MUFGがアコムを連結子会社化。第三者割当増資により三菱UFJ銀行の持分法適用関連会社化。  
2009商工ファンド(SFCG)、民事再生法適用申請、一旦受理されるも東京地裁は廃止を決定。これを受けて、破産手続開始決定。事業再生ADR手続申請。    
2010改正貸金業法完全施行。上限金利が29.2%から20%に引き下げ、総量規制実施。

武富士が会社更生法適用申請。

プロミスが三洋信販を吸収合併。

新生フィナンシャル、シンキを完全子会社化。
   MHFGの持分法適用会社化。 
2011SMFGがセディナ(旧ダイエーOMC)を完全子会社化。ライフの消費者金融事業を吸収、ライフカードがカード事業を継承。    
2012ニッシン、破産手続開始決定。

SMFGがプロミスを完全子会社化、上場廃止。SMBCコンシューマーファイナンスに商号変更。
     
2014経済産業省が反社問題でオリコに業務改善命令。     
2015 金融支援の対象債権に係る債務の完済及び金融支援の終了、事業再生ADR終了。    
2019   JCBの信用保証事業を会社分割により継承。LINEFinancial、みずほ銀行と共同でLINECreditに出資(オリコ出資比率15%)、持分法適用会社。みずほ銀行との包括提携解消。

ユーシーカードへの31%の出資を解消。

キュービタスは会社分割してUCに関わる事業を切り離し、100%子会社化。

大和証券グループ本社と資本業務提携を締結。


■筆者プロフィール■

久保氏久保 英次(くぼ・えいじ)
慶應義塾大学経済学部卒。CFA協会認定証券アナリスト、ニューハンプシャー州公認会計士。商業銀行、信託銀行、証券会社、金融会社、政府系金融機関、保険会社の信用力分析を担当。2016年入社。入社以前はムーディーズ・ジャパン金融機関グループにおいて、主任アナリストとして信用分析業務に従事。それ以前は主にPwCあらた有限責任監査法人にて投資銀行・証券会社、不良債権投資特別目的会社、保険会社の法定監査証明業務等に携わった。

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