[【企業価値評価】決算書の見方(早稲田大学大学院 西山茂教授)]
(2012/06/27)
「M&Aの視点から」
上記で説明したように、M&Aを行ってきた企業の貸借対照表には、通常無形固定資産の中ののれんや商標権などが大きな金額で記載されています。その金額の大きさから、その企業がどの程度積極的にM&Aを行ってきたのかの一端が分かります。
それ以外に、貸借対照表をもとにターゲット企業(買収される企業)の事業構造を見る場合に注意した方がいいポイントをいくつかあげましょう。
まず、流動資産の中の現金預金や有価証券などのキャッシュが多い場合は、持っているキャッシュの分だけは確実に価値があり、またキャッシュを使えばさらに価値を高められる可能性があるという意味で余力を残しており、お買い得な企業の可能性が高い、という見方ができます。一方で、キャッシュが少ない場合は、資金的にあまり余裕がない可能性があるので、その場合は財務的に強い企業に買収してもらうことを選択肢として考えてもいい企業、と考えることもできます。ただ財務的な余裕度は、キャッシュの多さだけではなく、後で説明する借入金・社債の大きさや事業の安定度なども含めて考える必要があるので注意が必要です。
次に、売掛金や在庫といった運転資金が多い場合は、不良債権や不良在庫の発生に注意が必要な事業であるといえます。またターゲット企業の運転資金が競合他社に比較して多い場合は、不良債権や不良在庫の状況についてデューデリジェンス(買収に関係する調査)でしっかりとチェックする必要があると同時に、運転資金を圧縮できればさらに価値を高められる企業という見方もできるので、その可能性についても検討することが望ましいでしょう。
次に有形固定資産が大きい場合は、設備を多く持っていることを意味しているので、その内容、古さ、稼働率、などについて確認する必要があります。逆に小さい場合は、社内では設備を持っていないことを意味しているので、メーカーであれば製造はどうしているのか、外注しているのであればどこにしているのか、外注先は継続して一定の品質の製品を供給してくれそうか、外注先との関係は安定しているのか、といった点に気を配る必要があります。
また、無形固定資産が多い場合は、上記のように過去の買収の痕跡を意味していますが、今後の参考とするために、買収の内容、買収後の業績や統合などの状況などについて確認することが必要です。
(後編へつづく)
■西山 茂(にしやま しげる)
略歴:
早稲田大学政治経済学部卒業。米国ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士課程(MBA)修了。監査法人ト-マツにて会計監査・企業買収・株式公開などの業務を担当したのち、㈱西山アソシエイツを設立し、株式公開支援や企業買収支援などの財務コンサルティング及び企業研修などの業務に従事。2002年4月より早稲田大学大学院(ビジネススクール)助教授に就任し、現在教授。学術博士(早稲田大学)。公認会計士。
主な著書に、MBAアカウンティング改訂3版(監修及び共著、ダイヤモンド社)、企業分析シナリオ第2版(東洋経済新報社)、英文会計の基礎知識(ジャパンタイムズ)、戦略財務会計・戦略管理会計改訂2版(以上ダイヤモンド社)M&Aを成功に導くBSC活用モデル(白桃書房)入門ビジネス・ファイナンス(東洋経済新報社)などがある。
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――4月1日「オリックス・クレジット」から「ドコモ・ファイナンス」に社名変更
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