[視点]

2018年12月号 290号

(2018/11/15)

株式対価によるクロスボーダーM&A ―産強法改正に接して―

棚橋 元(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)
  • A,B,EXコース
はじめに ― 20年前の相談事項

 今から20年ほどの前のこととなる。当時、多くの海外企業の買収を検討し実行していた国内上場企業から、「私どもはいつも金銭を対価として海外企業を買収している。しかし、財務上の観点から、特に大型買収となる場合に多額の現金を必要とすることに懸念を持っている。この点海外の企業は、必ずしも金銭対価ではなく、株式を対価として国境を超えるクロスボーダーの買収を行っているようであるが、日本の企業も同じように出来ないのか」というご相談を頂戴した。


基本的な分析 ― 直接方式と間接方式

 国内企業同士であれば、合併や株式交換という日本の会社法上の組織再編の仕組みを用いることで、株式対価の買収を実現できる。しかし、国内企業と海外企業との間でとなると、日本の会社法(当時は旧商法)上の組織再編の仕組みを用いることはできないと解されてきた。
 組織再編ではないとすると、株式を対価として買収するということは、買収者である国内企業にとっては株式を発行することになる。したがって、株式発行に関する会社法(当時は旧商法)上の規制がかかるが、発行の対価として買収者が取得するのは金銭ではなく対象者の株式すなわち「現物」であるから、現物出資の規制に服する。現物出資の規制を受けると厄介であるのは、特に、原則として裁判所が選任する検査役の調査を受けることとなり(注1)、その調査に時間を要し、またその結果も予測できないことから、当事者同士で合意した日程及び条件で買収を実行・完了できないおそれがあるからである(注2)。
 そこで、国内会社が直接株式を

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング