[視点]

2022年8月号 334号

(2022/07/11)

人権・紛争とM&A

~「責任ある撤退」の議論を視点に考える~

梅津 英明(森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士)
  • A,B,EXコース
潮目が変わり、渦を巻く時代

 「ビジネスと人権」を巡る潮目は完全に変わった。2011年に国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が策定されてから11年。当職自身、微力ながらこのテーマについて長く取り組んできているが、2010年代はなかなか日本企業において経営の優先課題になることはなかったところ、現在はむしろ経営の最重要課題の一つになりつつあるようにも思われる。隔世の感がある。急激に変わった背景にはもちろんESG投資やSDGs等の流れも受けた平時からの人権尊重の取組みの重要性が浸透してきたこともあるが、他方で、ここ数年の「紛争」の勃発が大きく影響しているようにも思われる。昨年発生したミャンマーのクーデターや、本年のウクライナ・ロシア紛争はもちろんのこと、近年の米中間の政治対立激化も一種の紛争といえる。これらの紛争は、人権課題が事業活動に与えるインパクトの大きさを痛感させることになった。潮目が変わっただけでなく、渦を巻いた状態で日本企業を直撃している状況とも言える。

 もちろん本稿で人権や国際紛争とM&Aに関する論点を全て取り上げることはできず、当職にその能力もないが、特に紛争国からの撤退等の際に議論になることが増えてきた「責任ある撤退」の議論を視点に、人権・紛争とM&Aに関する論点を、いくつか検討してみたい。

「責任ある撤退」

 紛争の局面において「責任ある撤退(responsible exit)」という概念が注目されるようになってきた。撤退には、事業の清算や取引関係の終了等もありうるが、その中でM&A(事業・株式等の売却)においても「責任ある撤退」の視点が重要になっている。例えば、

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