1.はじめに
最近、上場会社での社長交代劇において興味深い2つの事例に接した。
A社の事例は、取締役会で、業績悪化を食い止めることができなかった前社長を解任(会社法上の正確な用語としては「解職」)し、代わって新社長を選任(会社法上は「選定」)するにあたって、社外取締役がイニシアチブを取ったというものである(なお、取締役会では、旧社長に辞任を検討する期間を数日間与え、旧社長は数日後に自ら辞任したため、対外的には一般的な社長交代と同様の開示がされている)。
他方、B社の事例は、前社長が会社資金を自身の遊興費に用いるなど公私混同が甚だしかったため、事実の調査と証拠の保全を経て、取締役会での社長解任と新社長の選任が行われたが、その際には社内取締役がイニシアチブを取り、社外取締役・社外監査役のほとんどには取締役会の当日まで情報が伝えられていなかった。
本稿では、2つの事例の概要を紹介し、その中で一般化できる部分は何かを考察することとしたい。
2.A社の事例とその分析
■筆者プロフィール■
大杉 謙一(おおすぎ・けんいち)
1990年東京大学法学部卒業、東京大学助手、東京都立大学助教授を経て、2004年中央大学法科大学院教授(現在に至る)。専門は会社法・金融商品取引法で、主たる研究テーマはコーポレート・ガバナンス、ベンチャー企業、M&Aなど。経済産業省のCGS研究会等の委員を務める。著書に「会社法 第5版」(伊藤靖史・田中亘・松井秀征との共著)等がある。