非上場の中小製造業8社で構成される由紀ホールディングス(由紀HD、東京都港区)は2017年に創業し、日本の要素技術を次世代に継ぐという挑戦を続けている。由紀HDはM&Aの展開と並行して、グループの広報、人材採用、海外展開、販路開拓などの業務を担う。宇宙産業分野で日本の先端を走る中核子会社の由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)をはじめ、グループ各社の技術やノウハウを成長させる「中小企業の集合体」を形成している。M&Aに関する考え方や今後の経営方針について大坪正人社長に話を聞いた。
ローカルニッチトップを抱えるグループ
―― 高い技術力を有する企業を傘下に持つ、非上場の製造業グループとして有名です。売り上げや利益はどう推移していますか。
「ニッチトップ企業をHDとしてグループ化しています(図表1)。2022年12月期決算ではグループの売上総額が93億円、社員数が400人を超えました。前期はグループ企業が11社ありましたが、2023年3月に明興双葉というグループ最大の企業を新昭和グループ(千葉県君津市)に株式譲渡(バトン承継)しました。売却金額は非公開です。
直近の3期は58億円、73億円、93億円と右肩上がりで推移しましたが、前述の譲渡により、グループの規模はいったん小さくなっています。2023年12月期の売上高は減少しますが、2024年12月期以降はまた成長が続くと見込んでいます」
―― M&Aに対する考え方について教えてください。
「M&Aの対象は、先端産業に展開できる技術力を持つ企業です。“ものづくりの力で世界を幸せに”をミッションに、「日本の製造業の持つ優れた要素技術の消滅を防ぎ、発展させる」ことを目指しています。その手法として主に2つの特徴があり、①要素技術を深く理解し、製品ライフサイクルの波に乗せ替えていく=先端産業へ応用展開すること(図表2)②製造業をグループ化し、人財採用、企画広報、システム・IT、営業戦略、製造技術開発などを各社が利用できるプラットフォームとして提供することです。
製品ライフサイクルの乗せ替えでは、一例では、内燃機関業界における高度な表面処理技術です。内燃機関の需要は今後減少すると予想されていますが、そのような技術を異なるエネルギー領域に展開できる可能性があると思っています。そのように、技術を広く深く理解することが重要なため、現在は新しい企業を積極的にM&Aをするというよりは、グループ企業に力を発揮してもらうことに注力しています(図表3)」
【図表3】M&Aに対する考え方
企業選定の指標- ニッチな分野でも高いシェアを持っている
- オリジナルの競争力の高い技術を持っている
- 経営者がグループの理念に共感している
- 社会から必要とされる分野に展開できる可能性を持つ
グループ化した企業に対する対応- 企業のブランドを継続(企業名・商品名)
- 経営者に続投の意思があれば続投
- 破壊して作り変えるのではなく、良さを生かして展開
- 単体では投資が難しい積極的なイノベーションへの投資
市場規模から各社の最適な経営を探る―― グループ最大の企業である明興双葉を譲渡された背景や理由は?
「明興双葉は成長産業の上昇基調の波に乗り、過去3年間の成長で売上規模が2倍になりました。さらなるニーズに応え拡大を続けるためには大規模な設備投資が必要でした。
中小製造業の集合体である当社が、大きくなった企業を傘下に持ち続けるのではなく、適切な設備投資と規模拡大を促進できる大きな企業グループに譲渡するのが最善と判断しました。植物の鉢を大きくするように、規模を拡大させることのできるインフラに移すほうがお互いにとって良いという考え方です。当社もより小規模でニッチな種を育てることができます。具体的には、現在急伸している宇宙産業分野や、超電導などのエネルギー分野など、先端技術に注力していく予定です」
手掛けている製品の一部(超⼩型衛星筐体の製造)由紀精密の精密加工技術を宇宙分野に展開し、国内の多くの超小型衛星メーカーや大学から衛星の筐体を受注・製造している。実際に宇宙に打ち上げた衛星も数多い。精密加工だけでなく、機械設計・製図技術で、衛星メーカーをサポート
―― 子会社の上場あるいは由紀HDの株式上場は考えなかったのですか。
■大坪 正人(おおつぼ・まさと)氏
東京大学大学院(産業機械工学専攻)を修了後、インクス(現ソライズ株式会社)に入社。金型技術、工作機械設計、世界最高速の金型工場の立ち上げ、技術的な目線で投資先企業の再生に関わる。ミスミグループ本社技術顧問(Meviy)、慶応SFC研究所上席所員、内閣府教育未来創造会議(議長・岸田文雄総理)の構成員。