[M&A戦略と会計・税務・財務]

2022年5月号 331号

(2022/04/11)

第176回 国際経済の観点から見るウクライナ危機

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. ロシアによるウクライナ侵攻の世界経済への影響

 2022年4月1日に日本銀行から公表された日銀短観 (2022年3月調査)の業況判断DI(注1)では、大企業製造業で、2021年12月調査から3ポイント悪化の15、先行きは5 ポイント悪化の9、大企業非製造業で、1ポイント悪化の9、先行きは2 ポイント悪化の7、となることが明らかにされた。コロナ禍の最悪期だった2020年6月調査以降は改善傾向にあったが、 製造業は資源価格高と円安によるコスト上昇、部品不足による自動車の生産制約、 非製造業はオミクロン株の流行を背景に、7四半期ぶりに悪化に転じると分析されている(注2)。

 ウクライナ侵機の影響は、すでに金融市場や国際商品市況に表れているが、更なる経済制裁の影響や資源価格の高騰が、地政学リスクの高まりと相まって、企業の今後の景況感を厳しくさせるであろうことは想像に難くない。

 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻の世界経済への影響について、IMF(国際通貨基金)は、「エネルギーのほか、小麦やその他の穀物を含む一次産品の価格が急騰し、サプライチェーンの混乱や新型コロナウイルスのパンデミックからの回復による物価上昇圧力が、さらに増して」おり(注3)、「世界経済全体が成長減速とインフレ加速の影響を受けることになる」(注4)との見解を公表した。また、OECD(経済開発協力機構)が2022年3月17日に公表した中間経済見通しでは、ウクライナ侵攻は、世界のGDP成長率を侵攻前の予測よりも1%ポイント以上低下させ、世界の消費者価格を2.5%ポイント以上押し上げる可能性がある(注5)(図表1、2参照)との見解を明らかにした。
【図表1 GDPの成長率予測】
【図表1 GDPの成長率予測】
【図表2 世界の商品価格の上昇】
【図表2 世界の商品価格の上昇】
(出所: Economic and Social Impacts and Policy Implications of the War in Ukraine OECDホームページ)
https://www.oecd.org/economic-outlook/

 ウクライナ侵攻で世界経済は多大な影響を受けるに留まらず、地政学的秩序が根本から変化する可能性があり、地政学的緊張の高まりは、とりわけ貿易や技術に関して、経済が断片化するリスクを一層高める(注6)、とも考えられている。このような地政学リスクに直面する企業の当面の課題は、既にCOVID-19で対応が検討されていたサプライチェーンの見直しの他、資源調達先の多様化や、何よりも資源高、輸送費の上昇や輸送網の混乱、半導体需給逼迫による部品調達に関する懸念などから生じる、今期の営業利益への影響への対応であろう。これは国内外に事業拠点を有する企業については、移転価格の問題として捉えられ、ロシアに投資を行っている企業は、撤退等に伴う投資損失への対応が必要となるであろう。


2. 主要国の対ロシア経済制裁

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国連総会は3月2日、緊急特別会合を開催し、

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