[企業変革手段としてのM&Aの新潮流 Season3]

2024年2月号 352号

(2024/01/15)

第5回 地域プラットフォーマーへの進化に向けた「持株会社体制」の活用

植木 達也(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー)
高橋 淳(同 マネジャー)
  • A,B,EXコース
1. 地方銀行業界における再編の捉え方

 地方銀行業界ではこれまでも変革の必要性が叫ばれ、その都度M&Aや再編の機運が高まり一部で再編が起こりはしたが、業界としては緩やかな変化に留まり、抜本的な変化は起きなかった。地方銀行業界にとって「経営統合」や「企業再編」といえば、銀行業を主眼に置いたものであり、主にその手段としては複数の銀行が持株会社を設立しその下で各行が併存する「持株会社化」か、複数の銀行が一つの銀行となる「合併」が用いられてきた。

 一方、他業界に目を移すと戦略推進・構造改革のためにM&A、組織再編を積極的に活用しており、昨今のコロナ禍により「本業改革」「周辺・新規事業強化」の必要性が高まる中で更なる再編が進んでいる。地方銀行業界においても大手を含む一部の地方銀行では、他行との経営統合ではなく自行グループのみで持株会社を設立して持株会社体制へと移行する動きが見られる。これらは以前のような銀行業中心の経営統合・企業再編ではなく、周辺事業の強化を見据えた行動であり、地方銀行業界におけるグループ組織体制の有力な選択肢の一つとなってきているものと考える。

 本稿ではこのような地方銀行業界の動きの変化について改めて理解するとともに、地方銀行の更なる成長・生き残りに向けてどのように経営統合・企業再編を活用していくべきかを明らかにしていきたい。

2.  地方銀行の経営統合・企業再編に向けた機運

 これまで、銀行業における再編は1989年以降のバブル経済崩壊や金融ビッグバンを経て、金融持株会社の解禁、都市銀行を中心とした銀行同士の合併、持株会社化による複数銀行の同一グループ化などが進んできた。

 ただし、地方銀行における再編の多くが経営危機に陥った銀行の救済を主な目的とした経営統合であり、事業会社の経営統合のように抜本的な強化を目的とした経営統合が積極的に行われてきたとは言い難い。

 しかし、2021年以降は監督当局も業務範囲規制や事業会社への出資規制の緩和などの各種法改正、および地域金融機関の合併・統合に対する補助金の交付や日銀による金利優遇、独禁法の適用除外等の特例法の成立により地方銀行自身の自助努力の促進を企図し、地方経済の中核を担う地方銀行グループそのものに強く変革を求めていると推察される。

 このような変革の後押しを活用し、地方銀行業界では大手行を含め周辺事業強化を目的とした持株会社化や他行とのJV設立などに動いており、このような環境下にあって、地方銀行各行は如何に早く、如何に本気となって次の一手を打てるかが今後の勝敗を大きく左右する。しかし、従来の規制下において事業環境の大きな変化に乏しかった地方銀行にとって抜本的な改革は容易ではない。銀行業は顧客基盤・預貸金利鞘ともに抜本的な向上は困難であり、また、国内の地方経済は緩やかに縮小していく見込みである。また、他業強化においても「銀行の常識は世間の非常識」とも言われているように、銀行業は規制業種かつ相対的に変化が大きくないビジネスモデルであることなどから、他業種とは文化の違いはもちろんのこと、事業運営・業務遂行にあたり考慮すべき事項やそれに基づく社内人材の取り扱い等も大きく異なる。他業強化において地方銀行の先を行くメガバンクであっても他業強化においては異業種との協働・買収を図っていたことからもわかるように、地方銀行が変革を加速させるためには自前主義では限界があるとともに、「銀行主語」からの脱却が極めて重要となることは言うまでもない。

 「自前主義」「銀行主語」脱却に際しては、



■筆者プロフィール■

植木氏

植木 達也(うえき・たつや)
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー
M&A Unit
大手電機メーカーを経て現職。様々な業界に対してM&A/組織再編/提携戦略などの幅広いアドバイザリー経験を持つ。近年では、企業の次世代事業伸長に向けたグループ組織構造改革・組織/ガバナンス改革案件に多数従事。

高橋氏

高橋 淳(たかはし・あつし)
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー
M&A Unit
投資銀行、複数のコンサルティングファームを経て現職。金融、化学、エネルギーをはじめ幅広い業界に対してM&A・PMI・グループ内組織再編・組織改革等の幅広い経験を持つ。

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