[押さえておきたい新時代のM&A~海外M&Aのカギを握るリスク管理]

2024年12月号 362号

(2024/11/12)

第3回:会計不正によるM&Aの失敗リスクを軽減する ― フォレンジックDD/PMIの着眼点

佐野 智康(KPMG FAS 執行役員 パートナー)
石原 慎也(同 マネージャー)
  • A,B,C,EXコース
1.はじめに -会計不正によるM&A失敗リスクを軽減するために

 本連載の第1回では、買収先の会計不正によって日本企業が巨額損失を計上した事例が少なくないこと、第2回では、従来型DDによって不正リスクを検知するには限界があることを述べた。

 本稿のテーマである「買収先における会計不正」は、決して他人事ではなく、あらゆる買収案件において考慮すべきリスクである。警鐘を鳴らすために過去のサーベイ結果や事例をいくつか紹介する。
買収先における不正の発生割合:少し古い統計になるが、KPMG FASが日本の上場企業に実施したサーベイ(Fraud Survey 日本企業の不正に関する実態調査2016)によれば、買収先における不正発生割合は約1割となっている。M&Aの成功確率は約3割(失敗確率7割)と一般的に言われるが、不正が主な失敗要因の1つであることを示唆している。
買収前からの会計不正:日本企業が適時開示した買収先の会計不正事案を分析すると、驚くべきことに半数以上において買収前から不正が行われており、買収から発覚までに平均4年を要している。この中には損失金額が数百億円に達したケースもある。すなわち、悪質な売り手は買い手を欺いてくるといえる。
上場企業買収における会計不正:会計監査人が無限定適正意見を表明していた上場企業にも関わらず、買収後に巨額の会計不正が発覚した事例も複数存在する。上場企業の買収案件ではインサイダー取引等のリスクに鑑みてDDの情報開示が特に限定される。「上場企業だから」という理由での安心は禁物であり、DDの手続不足を補うためのPMIが必要不可欠である。
 これらの事案から得られる教訓として、会計不正によるM&Aの失敗リスクを軽減するためには、「性悪説」に立ってDD/PMIに臨む必要がある。具体的には、買収先が「会計不正の典型パターン」に当てはまらないか分析することが有効である。本稿ではこの手法を「フォレンジックDD」「フォレンジックPMI」と呼ぶ。要点は図表1のとおりである。


■筆者プロフィール■

佐野 智康(さの・ともやす)佐野 智康(さの・ともやす)
KPMG FAS 執行役員 パートナー
大学院卒業後、投資会社において投資先の開拓、投資審査、投資先の財務モニタリング業務に従事。2009年2月にKPMG FASフォレンジック部門に入社し、15年以上にわたり企業不正の予防・調査・再発防止のプロジェクトに従事。現在、Forensic Data Analyticsチームの責任者として、AIなどの先端テクノロジーを活用した不正検知や不正調査技術の研究開発をリード。

石原 慎也 (いしはら・しんや)石原 慎也 (いしはら・しんや)
KPMG FAS マネージャー
2022年に株式会社KPMG FAS 入社。公認会計士として大手監査法人にて幅広い業種の会計監査およびシステム監査を経て、現在、フォレンジック部門のForensic Data Analyticsチームにおいて財務データ分析を担当。

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