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[【企業価値評価】事業法人の財務担当者のための企業価値評価入門(早稲田大学大学院 鈴木一功教授)]

(2019/06/05)

【第6回】リスク分散の限界、効率的ポートフォリオ、市場ポートフォリオ

鈴木 一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科<早稲田大学ビジネススクール>教授)
1.リスク分散の限界と分散不能リスク(市場リスク)

  前回は、ポートフォリオのリスクの計測方法としての、分散と標準偏差について説明し、ポートフォリオを組むことで、リスク分散が可能になり、ポートフォリオのリスクが低減できることを解説しました。前回は、2つの投資資産のみによるポートフォリオを考えましたが、実際には、世界中にある投資資産を組み合わせて、ポートフォリオを組むことは可能です。それでは、投資資産を多数組み合わせれば、ポートフォリオのリスクは、どこまでも低下していくでしょうか。

  結論からいうと、分散投資によるリスクの低減には限界があり、いくら多数の投資に分散しても、リスクをゼロにすることは難しいのです。図表6-1は、このことをシミュレーションで示したものです。ここでは、投資の収益率の標準偏差がすべて30%で、各投資間の相関係数がすべて0.2の複数の投資に対して、それぞれの投資に等金額を分散投資した場合の対象投資資産数とポートフォリオリスクの関係をグラフにしたものです。(*)

*このグラフの数値がどのように計算されるかについては、鈴木 [2018]の第4章、脚注9の式をご参照下さい。

図表6-1  ポートフォリオの分散投資数とリスク低減効果




  投資案件数を1から2に増やすと、ポートフォリオのリスクは30%から23.2%へ、3に増やすと、20.5%へと、最初は順調にポートフォリオのリスクは減っていきます。しかし、グラフからわかるように、投資数が10を超えたあたりから、グラフのカーブは緩やかになっていきます。そして、このケースの場合には、いくら多くの投資に分散しても、理論的には13.4%(図表6-1の青色の破線で示した水準)よりもリスクを低減することはできません。このように、リスクのある投資案件同士でポートフォリオを組む場合、分散投資でポートフォリオのリスクをゼロにすることは難しく、ある程度のリスクは残ってしまいます。

  たとえば、日本国内での分散投資のため、幅広く上場企業の株式や社債を買い集め、また不動産等にも投資したとしましょう。たしかに、多くの企業の株式を購入すれば、その企業や資産固有のリスク(社長の健康不振や、個別企業の業績不振など)については、多数の企業で同時に発生することはまれですし、社債や不動産は、必ずしも株式と同じような動きをするわけではないため、ポートフォリオのリスクは低減されるでしょう。

  しかしながら、日本経済全体を揺るがすような不況が襲った場合は、どうでしょうか。大不況ともなれば、株式はほとんどが下落、社債も下落、不動産価格も下落するかもしれません。こう考えると、分散投資によって、経済全体、市場全体が抱えるリスクを完全に消し去ることはできないということが直感的にわかります。

  以上をまとめると、個別の投資のリスクの中には、分散投資で低減できる部分(図表6-1では、分散可能リスク、固有リスクと記述)と、分散投資でも低減できない経済や市場全体のリスク(図表6-1では、青色の破線より下の部分で、分散不能リスク、市場リスクと記述)があるということになります。そして、ファイナンス理論では、十分に分散したとしても消せない分散不能リスク、市場リスクこそが、「ハイリスク・ハイリターン」を考える際の基準とならなければならないと考えます。このことを、次節で詳しく説明しましょう。

2.リスク分散を前提とした場合のポートフォリオのリスクと期待リターンの関係

  さて、ここまでポートフォリオのリスク(標準偏差)について、説明してきましたが、次にポートフォリオのリスクと収益率(リターン)との関係を考えていきます。そのために、事例として、以下のような期待リターン、リスク、相関係数を持つ、投資7と投資8の2つの投資を考えます。



  ここで、投資7、投資8への投資比率が、それぞれw1、w2(w1+w2=1)となる投資ポートフォリオを考えます。この投資ポートフォリオの期待リターンの計算は、簡単です。ここでは、それぞれの資産の期待リターンが、その投資比率に応じてポートフォリオのリターンに貢献します。したがって、ポートフォリオの期待リターンを計算するためには、それぞれの投資資産への投資比率にその投資資産の期待リターンを乗じて(加重平均して)計算します。式で示すと、

ポートフォリオの期待リターン=w1×2%+w2×4% となります。

  一方ポートフォリオのリスク(標準偏差)は、より複雑な式で計算されます。詳細は、参考文献の拙著、鈴木[2018]の第5章 5-1を参照していただくとして、この例では、以下のような式で計算されます。

ポートフォリオのリスク(標準偏差)=


  たとえば、投資7に75%、投資8に25%投資するポートフォリオでは、

ポートフォリオの期待リターン=0.75×2%+0.25×4%=2.5%、

ポートフォリオのリスク(標準偏差)=


となります。

  ここでポートフォリオのリスク(標準偏差)と期待リターンの関係を、リスク(標準偏差)を横軸、期待リターンを縦軸にとって、グラフで示してみます。図表6-2では、投資7にすべて投資した場合からスタートして、少しずつ投資8の比率を増やしていき、投資8に100%投資するまでのポートフォリオのリスクと期待リターンの関係をグラフにしています。

図表6-2  投資7と投資8のポートフォリオのリスクとリターンのグラフ



  ここで、前述の計算例で示した、投資7に75%、投資8に25%投資するポートフォリオ(以下「75% : 25%ポートフォリオ」と記述)について再度確認してみます。このポートフォリオと投資7を比べると、以下のような関係があることがわかります。

75% : 25%ポートフォリオ    投資7
   期待リターン2.5%2%
   リスク(標準偏差) 14.7%15%

  すなわち、75% : 25%ポートフォリオは、投資7よりもローリスク・ハイリターンな投資となっています。リスク分散が可能な場合、連載第4回で説明したファイナンスの格言であるローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンの原則は必ずしも成立していないことになります。この格言をどのように修正すべきかについては、後程説明します。


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