[【バリュエーション】Q&Aで理解する バリュエーションの本質(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)]

(2025/03/25)

【第2回】フリー・キャッシュ・フローの計算において重要な2つのポイント

鷺坂 知幸(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー 公認会計士)

(監修)
中道 健太郎(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー)
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Question
DCF法では、将来のフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を一定の割引率で割り引くことによって事業価値を算出するため、将来のFCFの計算が非常に重要である。一般的に将来のFCFは事業計画を基礎として計算されるが、バリュエーションの観点からは、事業計画のどのような点に留意すべきだろうか。

また、FCFの計算においては、減価償却費等を控除した税引後営業利益を計算した後に、減価償却費の加算調整が行われる。なぜ減価償却費を引いた後に足し戻すという一見回りくどい計算をするのだろうか。
1 事業計画に基づくFCFの計算

 バリュエーションにおけるインカム・アプローチには、代表的な評価手法として、
  • 企業が将来獲得することが期待されるフリー・キャッシュ・フロー(Free Cash Flow: FCF)に着目したDiscounted Cash Flow法(DCF法)
  • 企業から株主に将来支払うことが期待される配当金に着目した配当還元法(Dividend Discount Model: DDM法)
  • FCFに加えて利払いや借入金の返済等を考慮し、株主に帰属するキャッシュ・フローに着目したEquity Cash Flow法(ECF法)
がある。そのなかでも事業会社の評価手法として最も一般的なDCF法は、主に以下の3つの要素から成り立っている。
① 事業計画等を基礎としたフリー・キャッシュ・フロー 
② 割引率
③ 継続価値
 今回は①の「事業計画等を基礎としたフリー・キャッシュ・フロー」の計算について解説する。FCFは、企業が事業を営む中で獲得するキャッシュ・フローから将来の成長に対する投資のキャッシュ・フローを控除した、事業を営むうえで拘束されず、自由(Free)な裁量で処分を決めることが可能なキャッシュ・フローのことである。一般的にFCFは事業計画を基礎として計算されるが、その際には事業計画の売上高から売上原価を控除して売上総利益を計算し、そこから販売費および一般管理費を控除して営業利益を計算したうえで、実効税率を控除して税引後営業利益を計算する。そのうえで、事業計画は一般的に損益計算書の概念であるため、キャッシュ・フローの概念に調整するために以下の調整を実施する。
  • 非現金支出費用項目である減価償却費の加算調整
  • 非費用項目であるが現金支出項目である設備投資額の減算調整
  • 売掛金等や経過勘定等の運転資本の増減調整
 なぜ営業利益を基礎とするかといえば、DCF法で計算する事業価値は、本業の価値であり、本業における利益の概念と営業利益が近似することが多いからである。

 以下では、製造業を営む会社を想定し、その会社の事業計画に基づくFCFの計算は図表1とする。


■筆者プロフィール
鷺坂 知幸(さぎさか・ともゆき)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー、バリュエーション&モデリング統括、公認会計士。
有限責任監査法人トーマツ入社後、米国会計基準を含む大手金融機関の監査業務に従事。その後デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に転籍し、無形資産価値評価、米国基準、国際会計基準ののれんの減損テスト支援、株式価値および事業価値評価等のバリュエーションサービスに関する業務に従事、現在に至る。

■監修者プロフィール
中道 健太郎(なかみち・けんたろう)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー
トロント、ニューヨークでの監査経験を経て、1997年に来日。金融機関・金融商品・不良債権の評価、海外資源・インフラ案件の評価、機械設備の評価、訴訟・競争法関連の評価・証言を含め、幅広い業種・状況におけるバリュエーションサービスに従事、現在に至る。

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