[【PMI】未上場企業買収後のPMIの実務(エスネットワークス)]
(2017/08/23)
第2回 PMIにおける「資金管理」の必要性
1.資金管理の重要性
買収を検討する会社の経営陣は未上場会社の買収を行う際に、被買収企業の収益性すなわち損益の状況に注目することが多いのではないでしょうか。
特に買収当事者が上場企業の場合には、被買収企業が連結決算の範囲に取り込まれることでグループとしての業績に影響を与えるおそれもありますからよりセンシティブになることは現実的にはあり得ることでしょう。
ただし、被買収企業の収益性が検討時点では低いけれどもその他の効果を狙って買収(例えばマーケットシェア拡大等の規模の経済を志向する買収等)を検討する場合もあります。こういうケースの場合において、CFOが特に留意すべきは資金管理だと筆者は考えています。
当然のことですが資金が枯渇した場合、会社は倒産します。現実的には、経営危機に直面すると、会社は取引先への支払を遅延させたり、税金を滞納したり、役員報酬を減額したり、ありとあらゆる方法を使って会社の延命を図ろうとします。また、仮に会社が黒字であったとしても、支払サイトが極端に短い場合は黒字倒産の可能性が高まります。被買収企業の状況を完全には把握できていない買収直後であればなおさらCFOが資金管理の状況を把握し、適切な管理体制を構築する必要性を認識すべきであることは必然といってもいいでしょう。一方で、買収の対象となる未上場企業に多くみられる「オーナー企業」の資金管理の現状はどうかというと、創業期からつづくオーナー個人による管理のレベルの域をでません。このオーナーの「感覚」に近い資金管理は時に極めて高い水準まで到達していることもありますが、もちろんですが買収企業がこの感覚を引き継げるわけではありません。そういった意味でも新たに近代的な、そして組織的な資金管理の体制、仕組みを一から構築していかなければならないケースも非常に多いといえるでしょう。
2.資金管理のコツ
(1)月中の資金の動きを把握する
資金管理の体制を構築する上でCFOが最初に行うべきは、月中の資金の動きを把握することです。これが把握できれば、まず短期での資金予測が可能となるため突然の資金ショートが発生するような事象を回避することができます。
①入金の状況
BtoCの企業の場合(具体的には外食や小売業をイメージしてください)、一般消費者からの入金が主な入金となります。これらの業種は毎日入金があるので、店舗で売上現金を管理した上で、翌日には銀行口座に入金がされます。一般消費者がクレジットカードで決裁した場合は、クレジットカード会社ごとの締め日に応じて入金がされます。通常、月2回の入金となっています。
BtoBの企業の場合、入金は通常、月末に集中します。というのも取引を行う場合には契約書を締結しますが、その中で資金決済に関する取り決めが盛り込まれ、その際、月末の決済とするケースが一般的であるためです。
②出金の状況
企業は一般的に下記に示す日程で大きな支払が行われます。まずはこの部分の状況を定量的に把握しておくことが大切です。
・10日 : 源泉所得税/住民税納付
・25日 : 給与支払
・月末 : 営業債権債務の決済、銀行借入の返済、社会保険料納付
特に月末の出金は多額になりますので支払資金を意識的に確保しておく必要があります。月末にはクレジットカードの入金、法人からの入金も集中しますからそれらの資金と入金の確実性、時間なども考慮にいれながら管理しておく必要があります。可能であれば、これらの月末の入金を想定しなくても支払ができる程度の資金残高があることが望ましいといえるでしょう。
(2)決済サイトを把握する
資金管理を行う上で次に大切なのが回収サイト及び支払サイトの把握です。把握したうえでこれらのサイトが適切であるかの吟味を行い適切でない場合は取引先と交渉する必要があります。
一般的には回収サイトは早めに、支払サイトは遅めに設定することが肝要です。入金したキャッシュを元手に支払を行うことが可能となり、健全な営業資金管理を行うことができます。
なお財務状況が芳しくない会社の場合は・・・
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■株式会社エスネットワークス
■筆者略歴
熊谷知範(くまがい・とものり)
慶應義塾大学卒業。公認会計士試験合格後、株式会社エスネットワークスに入社。未上場会社での経理実務支援、未上場会社での経理BPR業務、上場企業でのIFRS導入支援、ファンド投資先での管理部長代行業務に従事。その他、バリエーション業務、デューデリジェンス業務、フィナンシャル・アドバイザー業務を多数経験。直近ではファンド投資先のPMI支援を主に担当。
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