[【法務】事業承継M&Aの法務(ソシアス総合法律事務所 高橋聖弁護士)]

(2017/11/21)

第1回 株式譲渡契約の構造と論点(1)

 高橋 聖(ソシアス総合法律事務所 パートナー 弁護士)

(4)表明及び保証

  売手と買手それぞれが、相手方に対し、株式譲渡契約を締結する権限を持っていること等を表明し、保証することに加え、売手が買手に対し、契約締結時点やクロージング時点において、対象会社の事業・資産の内容等が一定の状態にあることを表明し、保証することが規定されます。買手が、有機的な結合体である会社というものが一定の状態にあることを前提として、合意された代金を支払って対象会社の株式を買い取るものであることを明らかにする機能があり、後に、対象会社が前提とされた一定の状態に無かったことが判明した場合に、買手が売手に対する補償請求を行う根拠となります。株式譲渡契約の中でも重要性が高く、それ故に、後に紛争の対象となることの多い規定であるといえます。

(5)クロージング前の義務

  例えば、売手については、株式譲渡実行のために必要となる対象会社の取締役会(又は株主総会)による承認決議の取得、買手については、株式譲渡の実行について独占禁止法上要求される届出の実施など、それぞれがクロージングまでに履行すべき義務が規定されます。買手が行ったデューディリジェンスの結果、対象会社が法令に違反しているなど、買手として株式を取得するまでに対象会社に改善措置を講じて欲しい事項が発見された場合には、これらの改善措置を講じることが、売手がクロージング前に履行すべき義務として規定されることになります。

(6)クロージング後の義務

  クロージングが終了し、対象会社の株式が買手に渡った後のそれぞれの義務が規定されます。一般的には、売手には一定期間の競業禁止や役員・従業員の引き抜き禁止義務、買手には対象会社の従業員の継続雇用義務、売手が対象会社の代表者として従前行った金融機関に対する保証の解消義務などが規定されることが多くみられます。

(7)補償・損害賠償

  売手や買手が、上記(4)の表明・保証に違反した場合、又は上記(5)や(6)の株式譲渡契約上の義務に違反した場合に、相手方が被った損害を補償又は賠償することが規定されます。売買の実質的な対象が会社であることの特質上、発生する損害が極めて高額になり得るため、補償額・損害賠償額の上限が定められることもありますし、極めて軽微な表明・保証違反についての補償・損害賠償請求がなされないよう、これらの請求が行える損害額の下限が定められることもあります。

(8)解除

  表明・保証違反や義務違反があった場合に加え、一定の時期までに前提条件が満たされず、クロージングが実施されない場合などに、契約を解除できることが規定されますが、一般的には、クロージングの実施以降は両当事者いずれからも解除ができないこととされます。この理由としては、会社の状態が日々刻々と変化するものである以上、事実上原状を回復することが困難であり、また、従業員・取引先等様々な利害関係者が存在することから、売手・買手間の問題の解決手段として契約の解除が適さないことなどが挙げられます。

次回は

  以上、本稿では、事業承継M&Aの代表的な手法である株式譲渡の特徴と、その際に締結される株式譲渡契約の構造について説明しましたが、次回は、株式譲渡において生じる株式譲渡契約上の具体的な問題点について、少し掘り下げて検討したいと思います。

■筆者略歴
高橋聖(たかはし・きよし)
1993年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。株式会社リクルート勤務を経て、1999年より弁護士としてTMI総合法律事務所にて、主にM&A、国際取引、一般企業法務等を取り扱う。2015年にソシアス総合法律事務所を開設し、現在は、事業承継案件を中心に、多数の非上場会社売却案件に売手・買手のリーガルアドバイザーとして関与している。
University of Virginia School of LawにてLL.M.(法学修士号)取得。第一東京弁護士会所属弁護士・米国ニューヨーク州弁護士。

 

 

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