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[【企業価値評価】財務分析入門(一橋大学大学院 円谷昭一准教授) ]

(2016/12/07)

【第4回】 収益性分析

 円谷 昭一(一橋大学大学院商学研究科 准教授)

 本連載では、「財務分析入門」と題して7回にわたって連載します。これまで安全性と効率性の分析方法を解説しました。第4回の今回は収益性の分析方法を紹介します。

3つの収益性指標:ROA、ROS、ROE

 「収益率」や「利益率」という言葉はよく耳にしますし、日常会話でも用いられる一般的な用語です。したがってイメージしやすいでしょう。会計学においては、「収益率はその企業が使用した資本とそこから生み出された利益との比率」、「利益率は生産・販売された額に対するマージン(利益)の比率」と区分されることがあります。ただし、実務ではこの2つを区分せずに用いることが多く、本連載でも厳密な使い分けはせずに説明していきましょう。したがって、収益率も利益率も同義とまずは考えてください。

 収益性の主要な指標は大きく3つあります。総資産利益率(Rate of Return on Asset: ROA)、売上高利益率(Rate of Return on Sales: ROS)、そして自己資本利益率(Rate of Return on Equity: ROE)です。ROA、ROS、ROEという用語が用いられることが一般的ですので、今回はこの略語をもっぱら用いることとします。

ROA(総資産利益率)

 テキストによっては総資本利益率と表記している場合もあります。投下している資本に対する利益率か、または、使用している資産に対する利益率かという見方の違いがあります。ただし貸借対照表の総資産(借方)と総資本(貸方)の金額は一致しますので、ここでは総資産利益率という用語で説明しましょう。使用している総資産に対してどれだけの利益を生み出したかの指標です。企業本来の業務活動での成果を知りたい場合には分子に営業利益を、企業の経常活動による成果を知りたい場合には分子に経常利益をとります。

 ところで、「西山先生のM&A基礎講座[決算書の見方]」で学んだように、損益計算書にはいくつかの「利益」が記載されています。売上総利益、営業利益、経常利益、税引前利益、当期純利益、包括利益などです。利益率を計算するためにどの利益項目を用いたらよいのか?財務諸表分析では実はここが最近は悩ましいのです。テキストの中には経常利益を用いる例がよく掲載されていますが、米国会計基準や国際会計基準(第6回で詳しく説明します)を使っている会社の損益計算書には経常利益が記載されていません。国際会計基準を採用する会社は増えつつあります。そのような企業では経常利益の代わりに営業利益や税引前利益を使うとよいでしょう(テクニカルになりますが、一部の項目を加減して作成した独自の利益指標を用いて分析してもよいでしょう)。
 


 ではさっそく自動車メーカー3社の総資産利益率を比較します。トヨタは米国会計基準を使っているため経常利益という項目がありません。ここでは3社の営業利益を用いて比較しましょう(税引前利益を用いてもよいでしょう)。
 


 総資産利益率ではトヨタとスズキがほぼ同水準ですが、富士重はその約3倍の高水準です。富士重は北米販売が好調で、2016年3月期には4期連続で営業利益が過去最高を記録しています。トヨタ、スズキも日本企業全体から見れば高い水準にあるので、富士重が極めて好調を維持していると考えるとよいでしょう。以前から指摘しているように、トヨタは金融業を営んでいるために総資産が膨らんだ貸借対照表となっています。自動車事業だけに焦点を当てた場合にはROAは今よりも高い数字になると推測されます。

ROS(売上高利益率)

 続いて、企業が販売した財やサービスの総額(つまり売上高)に対するマージン(利益)の比率を示す売上高利益率(ROS)を計算していきましょう。損益計算書にはいくつかの段階利益が表示されます(採用している会計基準や業種によって変わります)。ここでは日本基準を採用している富士重を取り上げて解説していきます。下記は富士重の2016年3月期の損益計算書(連結)のアウトラインです。
 


 2016年3月期の売上高は3兆2,323億円、営業利益は5,656億円、経常利益は5,770億円となっています。右列には売上高を「100」とした時の各項目の比率を記しています。つまり、この比率が売上高利益率そのものです。売上高を100とした時、営業利益は17.5、経常利益は17.9ですので、それぞれ売上高営業利益率は17.5%、売上高経常利益率は17.9%です。

 百分率で示した損益計算書は財務諸表分析をするうえで多くの示唆を与えてくれます。まず、売上高と売上原価の比率です。富士重では売上高100に対して売上原価は67.7です(売上原価率67.7%)。換言すると、「原価67.7万円で作った車を売価100万円で売っている」ことを意味します。この原価率は業種によってかなり異なりますので一概にどの水準が適正かを言うことはできません。たとえば同じ製造業でも化粧品業界や化学業界では売上高原価率は他の業種と比べると相対的に低く、その代わりに販売費及び一般管理費の比率が高い損益計算書の構造となっています。広告宣伝費や研究開発費を多くかけていることが理由です。

ROE(自己資本利益率)

 自己資本利益率は株主が拠出した資金(自己資本)に焦点を当てた収益性指標です。計算式は親会社株主に帰属する当期純利益を自己資本で割ります(連結貸借対照表の場合)。
 


 「親会社株主に帰属する当期純利益」というのは耳慣れないかもしれません。会計基準の改正により、2016年3月期の期末決算から損益計算書の表示方法が以下のように変更されています。
 


 以前の「少数株主」の呼び方が「非支配株主」と改正され、それとともに以前の「少数株主損益調整前当期純利益」が改正後は「当期純利益」に、以前の「当期純利益」が「親会社株主に帰属する当期純利益」と表示されることとなりました。分析にあたっては注意が必要です。

 同様に分母の「自己資本」にもまた注意が必要です。自己資本という項目は貸借対照表のどこを探しても見つけることはできません。自分の手で計算しなければなりません。貸借対照表の純資産の部は大きく4つの項目から構成されています。具体的には株主資本、その他の包括利益累計額、新株予約権、非支配株主持分です(連結貸借対照表の場合)。このうち親会社株主が出資している部分は「株主資本」と「その他の包括利益累計額」です。新株予約権はそもそもまだ出資がなされていません。あくまでも出資する“権利"にすぎません。非支配株主持分は文字通り、親会社株主による出資額ではありません。親会社株主が出資している部分は株主資本とその他の包括利益累計額となります。この2つの項目を合計したものが「自己資本」となりますので、各人で計算をする必要があります。
 


 ROSでは分子にどの利益を用いるかは分析視点や情報の入手可能性によって変わる、と説明しましたが、ROEについては分子は親会社株主に帰属する当期純利益のみしか使うことはできません。すでに説明したようにROEは株主が拠出した自己資本に対する利益率を知るための指標ですので、分子は株主に帰属する利益をとる必要があります。たとえば、営業利益であれば、その後に利息の支払い(営業外費用)がまだ残っています。したがって営業利益には債権者の取り分もまだ含まれています。税引前利益であれば、その後に法人税等の支払いがまだ残っています。したがって税引前利益には国の取り分がまだ含まれています。株主以外のすべてのステークホルダーへの必要な支払いを行った後で最終的に残った利益(したがって株主に帰属する利益)は親会社株主に帰属する当期純利益ということになります。さっそく自動車メーカーのROEを見てみましょう(トヨタは米国会計基準を採用しているため、株主資本の金額が分母となります)。
 


 北米での販売が好調な富士重のROEの高さが際立ちます。それに比べるとトヨタとスズキのROEはやや見劣りしますが、日本企業の平均と比べれば十分に高い水準です。2014年8月に経済産業省が公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ(伊藤レポート)」(http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002.html)の中では、日本企業に求めるROEが「8%」と明記されています。ROEが8%を超えていれば世界の投資家も十分にその企業を評価する、と言われています。したがってトヨタもスズキもROEの水準は問題ないと言ってよいでしょう。
 

 

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