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[【企業価値評価】財務分析入門(一橋大学大学院 円谷昭一准教授) ]

(2016/12/21)

【第5回】 成長性分析・総合評価

 円谷 昭一(一橋大学大学院商学研究科 准教授)

 本連載では、「財務分析入門」と題して7回にわたって連載します。これまで安全性、効率性、収益性の分析方法を解説しました。第5回は成長性の分析に触れた後に、総合評価と財務諸表の入手方法について紹介します。

成長性分析

 第1回では財務諸表分析を船の航跡に例えました。船は瞬間で大きく転舵することはできませんので、航跡を見ることでその船が進んでいくであろう未来の道筋をある程度想像することができます。財務諸表分析とは、「すでに起きた未来」の分析だと言えるかもしれません。過去の変化の延長線上に未来があるとすれば、過去の変化の分析こそが将来の分析なのです。

 成長性分析でもっともポピュラーなのが趨勢表です。以下はある会社の趨勢表です。10年前の水準を「1」とし、各項目(ここでは売上高、営業利益、総資産、純資産)がどのように変化してきたかを示しています。この会社の場合、資産の伸びに対して売上高や営業利益の伸びが追いついていない状況です。成長ステージにあり、積極的な設備投資を行っているからかもしれません。
 


 このように趨勢表を作ることで企業のこれまでの成長過程を浮き彫りにすることができます。この延長線上にその会社の未来が待っているはずです。これが成長性の基本的な分析方法となります。


総合評価(ウォールの指数法)

 これまで安全性、効率性、収益性、成長性と説明をしてきました。最後のステップは総合評価です。結局のところ、その会社の総合評価はどうなのか、ということです。伊藤邦雄『新・現代会計入門 第2版』(日本経済新聞出版社)の終章では、総合評価としてアレキサンダー・ウォールが考案した指数法(以下、ウォール指数法)が紹介されています。ここでは同書に準拠してこのウォール指数法を説明しましょう。

 ウォール指数法では総合評価のために取り上げる指標として以下の7つの比率を採用しており、それぞれの項目にウェイト付けをしています。採用されている7つの比率について、まずは標準比率を求めます。標準比率としては業界平均値を用いるのがごく一般的です。たとえばA社の流動比率が200%だったとしましょう。A社の所属する業界の平均的な流動比率が150%だったとすると、A社の相対的な流動比率の(業界内での)優位性は200÷150=1.33と計算されます。流動比率のウェイトは「25」ですので、これに1.33を掛けるとA社の流動比率のスコアは33.33と計算されます。同様に他の6つの比率についてもA社のスコアを計算し、最後にそれらを合計して総合スコアを計算します。この総合スコアが100であれば(各比率で優位性にバラつきはあるとしても)ほぼ業界平均と同水準の数字と言えるでしょう。
 


 ウォール指数法は今から100年以上も前に考案されたものですが、考え方はとてもシンプルで、かつ、使いやすい総合評価の方法です。ウォール指数法では安全性と効率性の指標のみを採用していますが、これはウォールが銀行の融資担当者だったからかもしれません。評価の目的によってこれまで解説してきた他の指標を採用しても構いませんし、ウェイト付けも自由に変更してよいでしょう。

 総合評価の事例をもう1つ紹介しましょう。池井戸潤『会社の格付』中経出版(1997年)から抜粋しました。この評価法では「安全性」「収益性」「成長性」「返済能力」が定量要因として採用され、合計129点が配分されています。定量要因とは別に市場動向、景気感応度、市場規模、競合状態といった定性要因も11項目採用されており、合計71点が配分されています。定量要因と定性要因の合計200点満点で総合評価がなされています。
 


(出所)池井戸潤『会社の格付』中経出版(1997年)から抜粋


 ここで紹介した2つの総合評価方法はどちらとも銀行(債権者)の視点で作成されています。もちろん視点が変われば採用する指標とウェイト付けも異なるでしょう。たとえば、株主であればROE(自己資本利益率)を重視するかもしれません。採用する指標とウェイトは分析視点によって変わりますので、総合評価はほぼ無限に広がります。

どのようにして財務諸表を手に入れるのか

 さて、これまで安全性、効率性、収益性、成長性と解説してきましたが、その中で数値例をとして取り上げたトヨタ、富士重(スバル)、スズキの財務情報を私がどのようにして手に入れたか、一切説明してきませんでした。財務分析をするため必要な財務諸表はどこで手に入れることができるのでしょうか。ここではその入手方法をごくごく簡単に説明していきます。

 日本には証券取引所に株式を上場している上場会社が約3,600社あります。これらの企業の株式は一般に広く取引されており、円滑な取引ひいては健全な資本市場の運営のために、金融商品取引法の定めに従って上場会社は財務諸表を定期的に開示しなければなりません。株式を上場していなくても、大会社は社会的な影響力も大きいため、一定の条件を満たした大会社も同様に提出が義務づけられています。この開示書類のことを有価証券報告書と呼びます。略して有報(ゆうほう)と言うこともあります。有価証券報告書は決算から3カ月以内に開示しなければなりません。

 日本の上場会社の7割弱を占める3月決算の会社であれば6月末までに有価証券報告書を開示する必要があり、実際に多くの会社は6月の終わりに開示しています。各社が開示した有価証券報告書を閲覧できるサイトがEDINET(http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/)です。EDINETのトップページの「書類検索」をクリックし、見たい企業の名称を入力すれば各社の有価証券報告書を閲覧することができます。

 有価証券報告書の構成(目次)は法令によって定められていますので、どの会社も(記載の軽重の差はありますが)記載されている項目は基本的に一緒です。財務諸表は、有価証券報告書の後半部分に「5.経理の状況」という名称で収録されています。

 有価証券報告書は金融商品取引法などの法令に従って作成されますので、内容は詳細かつ網羅的です。したがって作成にも時間がかかり、決算から3カ月近く経たなければ我々は入手することはできません。今日のように為替や原油価格、株価などの経済環境が目まぐるしく変化する時代には3カ月前の決算情報ですらもはや古い情報となってしまいます。投資家などは、そこまで詳細でなくともよいので、重要な情報のみをより簡潔にまとめてもっと早く公表して欲しいという要望を持っています。そうした要望に応えるために用意されているのが決算短信です。
 

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