前編ではイタリアの電力大手エネル(Enel)のM&Aと投資実績に関して、中期計画で注力する3分野(再生可能エネルギー、デジタル分野)のうち、再生可能エネルギーとデジタルの分野における取り組みを紹介した。後編ではイタリア以外でのアウトバウンドの動向(海外分野)を解説する。また、再生可能エネルギーとデジタル分野での、オープンイノベーションへの取り組みについても紹介する。
欧州でのM&A イタリアでエネルギー自由化が始まった1999年、国営電力公社であったEnelは、保有する発電所の多くを売却させられることになった。そこで、Enelは2000年代後半、M&Aを活用し、欧州の電力市場に進出を図ることにした。
まず、Enelは2002年、スロバキアの電力会社SEASを買収し、スロバキアの電力市場への参入を果たした。2006年にスロバキアの電力会社 Slovenske Elektrarne、2009年に同じくSlovak Electricを買収した。今では、スロバキアの電力市場で最大手プレイヤーとなっている。
2003年には、スペインの電力会社Endesaの株式の40%を取得することで同社の最大の株主となり、スペインの電力市場に参入した。2003年にはスペインのエネルギー会社Union Fenosaと協力し、再生可能エネルギー分野の合弁会社Enel Union Fenosa Renovablesを設立している。2005年にはスペインの電力会社Viesgoを買収し、スペインの電力事業を強化した。その後、2007年にEndesaを完全子会社化した。これらの結果、Enelはスペイン最大の電力会社になっている。
2006年、ルーマニアの電力会社 Electrica Muntenia Sudを買収し、ルーマニアの電力市場にも参入した。
さらに、同時期となる2006年に、ブルガリアの電力会社 Maritza East III Powerを買収しており、ブルガリアの電力市場への参入も果たした。2008年には、同国のNEKも買収している。また、2007年にはオーストリアの電力市場にも参入している(オーストリアの電力会社Verbundの株式取得によって、最大株主になった)。
南米でのM&A戦略 前述した2007年に買収したスペインのEndesaは、…
■ 筆者履歴

出馬弘昭(いずま ひろあき)
IZM代表。1983年京都大学工学部機械系物理工学科卒業。大阪ガスに入社し、同社R&DおよびIT部門でデータ分析、行動観察、オープンイノベーション事業などを立上げ。2016年より米シリコンバレーに駐在し、欧米クリーンテックとのビジネス開発を開拓。2018年に東京ガスに入社し、シリコンバレーのCVC立上げに参画。2021年に帰国し、東北電力に入社し、事業創出部門のアドバイザーに従事。製造業やコンサルティング大手などの外部顧問、海外スタートアップの日本展開支援なども務める。2022年、大阪大学フォーサイトの取締役、東京都の脱炭素化Fund of FundsとインベストメントLabのアドバイザーに就任。南カリフォルニア大学ロボット研究所客員研究員、京都大学非常勤講師、大阪市立大学非常勤講師、日本オペレーションズリサーチ学会副会長などを歴任。
大阪大学フォーサイト
https://ou-foresight.com 東京都の脱炭素化FoF
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