[M&A戦略と会計・税務・財務]

2019年5月号 295号

(2019/04/15)

第143回 近年の税制改正と海外組織再編への影響

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 企業活動のグローバル化の進展に伴い、日本企業の海外子会社等がM&Aの当事者となる場合が増えている。日本企業の海外子会社の組織再編には、日本親会社が再編取引に当事者として直接関連する場合と、日本親会社は取引に直接は関連しないが、株主という立場で国外グループの組織再編に間接的に関与する場合の二つが考えられる(注1)。前者は、日本親会社が子会社株式を株式譲渡、現物出資又は株式交換等の方法により、外国子会社を持株会社化ないし地域統括会社化する目的で再編を行う場合である。後者は合併等により、複数の法人の事業を統合する場合が該当すると考えられる。

 海外への関連会社等の展開に係る税制としては外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)とコーポレート・インバージョン(注2)対策合算税制が存在し、法人税法に規定する組織再編税制とは別に租税特別措置として規定が置かれている。 これは、内国法人による軽課税国への関連会社の設立による国際的な租税回避防止の制度として設けられたものである。 

 一方で、法人税法に規定する組織再編税制においても、クロスボーダーの現物出資や三角合併等については、国内で完結する現物出資や三角合併等の場合と異なる取扱い(組織再編に係る課税繰り延べや税制適格要件等)とされている。

 以下では海外組織再編等に係る近年の税制改正について解説を行う。


2. 平成31年度税制改正による三角合併等の対価の見直しとコーポレート・インバージョンへの対応

 平成31年度税制改正では、合併、分割及び株式交換に係る適格要件並びに被合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる要件のうち、対価に関する要件について、対象となる合併等の対価に合併法人等の発行済株式等の全部を間接に保有する関係がある法人の株式以外の資産が交付されない場合のその法人の株式を加えることとされた。これは、平成19年度税制改正により、会社法での合併等対価の柔軟化に対応して、税務上もいわゆる三角合併等を認めた制度について、従前は合併法人等の100%親会社の株式を税制適格の対価として認めていたところ、平成31年度税制改正により、間接的な100%親会社株式まで範囲を拡大したものである(図表1参照)。

 このような改正に伴い、コーポレート・インバージョン対策の措置についても、対象が拡大され、以下の見直しが行われている。

①  企業グループ内の一定の内国法人間で行われる合併等のうち、合併法人等の発行済株式等の全部を間接に保有する関係がある外国法人(特定軽課税外国法人(注3)又は特定軽課税外国法人の親法人である外国法人に限る)の株式を対価とするものは、適格要件を満たさない。
②  個人又は法人が、適格合併等に該当しない合併等により合併法人等の発行済株式等の全部を間接に保有する関係がある外国法人(特定軽課税外国法人又は特定軽課税外国法人の親法人である外国法人に限る)の株式の交付を 受けた場合には、旧株の譲渡損益を計上する。
③  非居住者株主が合併等により合併法人等の発行済株式等の全部を間接に保有する関係がある外国法人の株式の交付を受けた場合には、旧株の譲渡損益を計上する。

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