1. 日本が人口減少を乗り越えて成長するための戦略「価値循環」 人口減少下でも成長は可能― 長らく停滞してきた日本を再び成長軌道に乗せるためのキーワードとしてデロイト トーマツは「多様性」と「価値循環」を掲げています。ヒト・モノ・データ・カネという「4つのリソース」の循環と、人口減少下でも増加する「機会」を掛け合わせることで、供給者ではなく需要家の視点に立ち、新たな需要創出の機会を積極的に切り拓いていくというものです。4つのリソースのうち、データについて着目したのが下記に示す価値循環サイクルです。
<図表1> サイバー空間とフィジカル空間を融合させる「価値循環サイクル」

(出所)デロイト トーマツ コンサルティング(以下同)
価値循環サイクルの第一段階「データをとる」では、情報のデータベース化が進んでいない場合や、データベースがあったとしてもデータ共有に対して心理的な抵抗感がある場合があります。第二段階の「つながりをつくる」では、データ共有の場がまだ少なく、データを繋げるためのルールが存在しておらず、各社が異なる様式でデータを保有していることもハードルとなります。第三段階の「価値を生み出す」では、データを読み解き価値に変えていくための人財不足や、既存のルールが制約となっていることが課題として存在しています。
こうした課題が山積する中で、その解決の糸口として今回は医療・ヘルスケアを取り巻く環境変化を捉えた上で、循環型エコシステムの形成に向けたポイントを取り上げます。
2. 世界における課題先進国家「日本」 日本の超高齢化社会、社会保障給付費の増加、就労人口の人口減少がドライバーとなり、今、何らかの打ち手がなければ、日本はいずれ財政破綻を迎えるともいわれています。そのような事態に対応するために重要なのは、高齢者を含めた生活者の一人一人が一日でも長く健康に生活が送れるようにする、いわゆる「健康寿命の最大化」を図ることです(注1)。そのような社会において、ヘルスケアが目指す「健康」の定義は、もはや単に「病気になっていない」や「病気が治癒した」状態を指すものではなくなるでしょう。生活者が一日でも長く、自分らしい社会活動を送るためには「肉体的・心理的・社会的・精神的・経済的に幸福であること(well-being)」が常に満たされている状態である必要があります(注2)。
そして、日本が経験する人口動態の変化に関連するこうした深刻な課題は、他の国々が未来に経験することです。先陣を切って課題解決に向けた革新的な打ち手を創造することが期待されています。
3. ヘルスケア関連のデジタル技術の普及・発展
■筆者プロフィール■

増井 慶太(ますい・けいた)
デロイト トーマツ コンサルティング / モニター デロイト パートナー/執行役員 ライフサイエンス & ヘルスケア、ストラテジー
国内外の製薬企業、医療機器企業、医療ICT企業、化学企業、食品企業、保険企業、商社、プライベートエクイティ、スタートアップ企業に対して多様なサービスを提供。“イノベーション”をキーワードに、ビジョン策定、全社成長戦略、事業ポートフォリオマネジメント、新規事業開発、機能部戦略(研究開発・製造・営業・マーケティング)、M&A、ライセンシングなど、戦略立案から実行支援まで携わる。

富野 賢治(とみの・けんじ)
デロイト トーマツ コンサルティング / モニター デロイト パートナー/執行役員 M&A
大手通信会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。主に製薬、通信、電機メーカー、消費財において、M&A/PMI(買収後の事業統合)、事業化・シナジー創出支援、組織再編を実践。IEBE Business SchoolにてMBA取得。

熊谷 将(くまがい・しょう)
デロイト トーマツ コンサルティング パートナー/執行役員 M&A
医療機器業界や産業機器業界等を中心にM&A戦略・ターゲットスクリーニング、ビジネスデューデリジェンス、M&Aビジネスアドバイザー等、M&Aに関するコンサルティング業務に20年以上従事。

桐山 千佳(きりやま・ちか)
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー M&A
製薬企業やテック企業、スマートシティ事業を行う企業・地方公共団体等、幅広い業種において、新事業参入支援に従事。新事業立ち上げに伴うゴー・トゥ・マーケット/パートナリング戦略策定、事業運営/IT組織設立構想、新会社設立支援等。