[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]
2017年2月特大号 268号
(2017/01/19)
(前回までのあらすじ)
三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。
総合朝礼
オフィスにはローカル社員も多くが出勤してきたようだ。会議室の外から独特のイントネーションの英語が聞こえてくる。今朝は本社全員を集めて時間拡大版で実施する総合朝礼の日だ。考えてみれば、それもあって小里も本社に戻ってきていたのかもしれない。
しばらくすると始業のチャイムが鳴り、社員は4Fの最も広いオフィススペースに集まり始めた。普段は企画や経理の執務エリアだが、本社の中で最も遠くまで見通せる場所のため、総合朝礼の場所として使用されていた。
総合朝礼には、本社オフィスの全従業員が参加する。日本人駐在員もローカル社員も全員だ。普段は毎朝、部署ごとに部門長を中心に朝礼を行っているが、総合朝礼の日は社長の狩井も参加し、経営企画のローカルスタッフが全体を取り仕切る。今日も企画部の若いメンバーが、緊張した面持ちでマイクを使い総合朝礼の開始を告げた。そしてしばらくすると、狩井が前に出て話を始めた。
「Good Morning, everyone. I hope everything around you are going well.」
狩井の表情はいつものようににこやかだ。英語は決して流暢というわけではない。発音もイントネーションもいわゆる日本人英語だ。語彙も決して多いわけではなく、シンプルな単語が多い。しかし温かみというか、相手を引き込む魅力があった。それは声質かもしれないし、表情や声量の強弱の付け方かもしれない。もしくは狩井という男の持つ独特の雰囲気なのかもしれない。いずれにせよ狩井がスピーチを始めると、ローカル社員の多くはいつも真剣に耳を傾けた。
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