レコフデータは1985年以降のM&Aデータベースを構築しています

キーワード 一覧

[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]

2017年9月号 275号

(2017/08/15)

第29回 『執行部の刷新』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

【登場人物】(前回までのあらすじ)

  三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
  インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
  朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
  苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
  そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。
  日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われていたが、狩井はじめ日本人駐在員は徐々にインドでのビジネスの手ごたえをつかみつつあった。そしていよいよ、一度頓挫した取り組みを再始動させようとしていた。



PMIのNext Stage

  レッディ社買収から1年半が経つ中で、狩井はPMIの次の段階に踏み出すことにした。執行部の布陣を変え、新たなレッディ社の議論を開始すべきと判断したのだ。
  買収後からこれまで、狩井ら駐在員は必死にインドビジネスを理解し、そして様々な改革施策を行ってきた。しかしそれらは、創業家が作り上げてきたレッディ社の延長線上での補強に過ぎず、改善という範疇を出ていない。今こそ、それまでの延長線上だけではない、三芝電器グループの一員となった新たなレッディ社の未来を描かなくてはならない。そのためには、従来の考え方から抜け出せない役職員を交代せざるを得ない。
  狩井は自らの決断を駐在員に告げると、経営管理担当の井上を責任者に据えて、早速取り組みを開始した。

同時並行での組織図の再構築

  狩井の決断から1カ月ほど経ったある日の終業後、駐在員はいつものように狩井宅に集まった。いつもインド全国を飛び回り、本社にいることが珍しい小里も一緒だ。狩井手作りの特製日本カレーと唐揚げを全員で平らげると、いつものように仕事の話が始まった。
「例の人選の件は順調に進んでいるのか?」
  小里がそう尋ねると、井上はビール缶をテーブルの上に戻し口を開いた。
「比較的順調にいっています。人材紹介会社からはそれなりの候補者情報が入手できていますし、一部先行的に私の方でインタビューを開始した方もいます。また有力な候補者については、狩井さんはじめ皆さんとの面接をそろそろアレンジする予定です」
  小里は頷きビールを一口飲んだ。そして重ねて質問した。
「僕がきちんと全体像を理解できておらず申し訳ないのだが、いま外部調達で獲得しようとしている人材は、一体どのポジションに据える予定なんだ?」
  井上は「まさに重要なポイントです」と即答すると、鞄から何枚かの資料を出して説明を始めた。
「採用活動と同時並行で、レッディ社の組織図の再整理を進めています。大枠は固まってきましたが、まだ幾つか検討すべきことがあり、最終確定するにはもう少し時間がかかりそうです」
「なるほど、つまりまだどのポジションに外部人材を据えるかは未確定ということか」
  小里は資料を見ながらそう言うと、井上は頷き話を続けた。
「その通りです。もちろん、本来的には組織図を固めてから、それぞれのポジションのジョブ・ディスクリプションを明確化し、それを採用募集に出すのが正しい進め方です。ただそれだと時間がかかりすぎるというか、ジョブ・ディスクリプションにマッチする人材がいなかった場合には、組織図自体を見直さざるをえない状況も予見されるので、今回は同時並行で進めています」
  一同は興味津々で新組織図の素案を眺めた。幾つかのポジションには、手書きで人名が入っている。しかし取り消し線で名前が何度も消されていたり、まだ複数候補者名が記載されている箇所も多い。井上の悩みがひと目で伝わってきた。

聞き取り調査で作成した、買収後の組織図

  井上は話を続けた。
「新たな組織図を作る上でもっとも重要な情報は、現在の正確な組織図や人事情報です。正直なところ、現在の組織図は怪しいところが多くあります。何というか、組織図に記載された通りの指揮命令系統で人が動いているのか、定かではないところが未だあるのです。ようやく人事台帳が整備されてきたので精度は上がってきていますが、それでも細かいところはよくわからない。だから現在の組織図を検証しながら、新たな組織図の策定を進めているような状況です」
  井上はビール缶を手に取り残りを飲み干すと、再び口を開いた。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

[無料・有料会員を選択]

会員登録

バックナンバー

おすすめ記事

加熱する「M&Aマッチングプラットフォーム」市場

速報・トピックス

【第3回】取締役会はいかに価値創造に貢献するべきか

スキルアップ

[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

NEW 【第3回】取締役会はいかに価値創造に貢献するべきか

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
柳沢 和正(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)

M&A専門誌 マール最新号

マールマッチング
M&Aフォーラム
NIKKEI TELECOM日経テレコン
日経バリューサーチ

M&A専門誌マール

M&A専門誌マール

「MARR(マール)」は、日本で唯一のM&A専門誌で、「記事編」と「統計とデータ編」で構成されています。

レコフM&Aデータベース

レコフM&Aデータベース

「レコフM&Aデータベース」は、日本企業のM&Aなどどこよりも網羅的に、即日性をもって構築している日本で最も信頼性の高いデータベースです。

セミナー

セミナー

マールの誌面にご登場いただいた実務家、研究者などM&Aの専門家を講師としてお招きし、成功に導くポイント、M&Aの全体プロセスと意思決定手続き、実証研究から見た分析などについてご講演いただきます。

SPEEDA RECOF

SPEEDA RECOF

「SPEEDA RECOF」とは「レコフM&Aデータベース」と株式会社ユーザベースが開発・運営する企業・業界情報プラットフォームである「SPEEDA」がシステム連携します。

NIKKEI TELECOM日経テレコン 日経バリューサーチ

日経テレコン

2002年7月に、日本経済新聞デジタルメディアが運営する日経テレコンの「レコフM&A情報」を通じてM&Aデータの提供を開始しました。

M&Aに関するお問い合わせ、ご相談は
こちらからお気軽にお問い合わせ下さい。

お問い合わせフォーム