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[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]

2018年2月特大号 280号

(2018/01/19)

第34回 『製造本部、営業本部の実力値』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

【登場人物】(前回までのあらすじ)

  三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
  インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
  朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
  苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
  そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。
  日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われていたが、狩井はじめ日本人駐在員は徐々にインドでのビジネスの手ごたえをつかみつつあった。そしていよいよ、一度頓挫した取り組みを再始動させようとしていた。



突きつけられた課題

  土曜午後に急きょ招集された「課題共有検討会」は、2つ目のセッションである全体討議が続いていた。事業部制への移行を核とした組織改編を行ったばかりの製造本部では、開発・商品企画・設計などの上流工程で多くの課題が提起され、想像以上に厳しい実態に驚きの声が上がった。
  また、これまで伊達の下で一定の改革を進めてきた下流工程の製造機能についても、外部から登用された事業部長からは厳しい指摘が浴びせられた。
「三芝電器に買収されてから、きっと様々なカイゼンに取り組まれてきたと思います。買収前はきっと今よりもひどい状況だったのでしょう。ただ現状の製造機能も、同程度の売上規模のインドメーカーと比べてもかなり厳しい状況と言わざるを得ません」
  1人の事業部長が立ち上がると、壁に貼られた模造紙のメモを指さしながら話を始めた。
「まず、勤務年数が長いワーカーが多いにもかかわらず、そのほとんどは最低レベルの製造技術と知識しか有していません。一部、日本人の熟練工が短期間指導したラインだけは一定程度の製造技術が見られますが、定着度と安定性から見ればまだまだ不十分です」
  伊達は黙って頷きながら話を聞いた。事業部長は話をつづけた。
「低いレベルの技術で製造されたものが、そのまま次の工程に渡されていることも大問題です。つまり現在は工程検査が十分に行われておらず、多くの不良品が次の工程に流れてしまい、雪だるま式に損失を生じさせています。しかもこれは、工程検査員がサボっているわけではなないのです。工程検査に必要なドキュメント類が存在せず、検査に必要な装置さえほとんどありません」

製造本部の実力値

  事業部長はいったん話を止め、伊達に視線を向けた。伊達は黙ったまま右手を前に出し「どうぞ続けて」というジェスチャーで応えた。
  事業部長は続けた。

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