[Webインタビュー]

(2022/02/15)

【第135回】コーポレートガバナンス改革の現状と今後の展開~経産省「CGS研究会」と企業統治改革

安藤 元太(経済産業省 経済産業政策局 産業組織課長)
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―― 2021年11月に第3期となる「コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会」を立ち上げました。開催趣旨や目的を教えてください。

「日本でこれまで進められてきたコーポレートガバナンス改革では、『企業におけるガバナンス機能の強化』(典型的には取締役会の機能強化)、と『機関投資家における企業との対話・投資判断』(スチュワードシップ活動としてのエンゲージメント)をしっかり行って、この2つが『車の両輪』となってガバナンスを良くすることが想定されていました。そこで目指している目的は『持続的な成長と中長期的な企業価値の向上』です。



 しかし、現状、この2つが目的にしっかり結び付いているかというと、必ずしもそうはなっていません。

 実際、日本企業では設備投資や研究開発投資はさほど進んでいません。実質賃金も米国に比べ低迷しています。

 また、企業業績と企業行動に関連する分析では、コーポレートガバナンス改革により、企業が有利子負債を減らす、現預金を増やす、株主資本配当率を増やす ―― といった効果は見られるものの、中長期的な投資には回っていないという結果になっているものもあります。

 コーポレートガバナンス改革を始める前後の設備投資の比率を現在と比較すると増えていますが、それは必ずしもそれがガバナンス改革の効果ではないのではないかという分析結果です。

 企業の利益率を見ても、欧米に比べると営業利益率(ROA)の水準は低く、ROAの標準偏差も小さくなっています。つまり、欧米ではリスクを取って成功して儲かった会社も沢山あれば失敗して儲からなかったという会社も沢山ある状況ですが、日本はそうではなく、全体的にローリスクでローリターンの行動を取っているという見方ができます」

「攻めのガバナンス」の本来の意味

―― ガバナンスを強化しても企業業績が良くなっていない、との分析について、詳細を教えてください。

「日本におけるガバナンス改革は中長期的な企業価値の向上につなげるのが目的ですが、その途中で目詰まりが起きているのではないかと考えています。例えば、社外取締役、指名委員会・報酬委員会、これらはいずれも増えていますが、それが企業経営に実質的な変化をもたらさず、中長期的な企業価値の向上に必ずしもつながっていないのではないかと思います。

 日本のガバナンス改革には元々、『攻めのガバナンス』という発想がありました。この『攻めのガバナンス』という概念は、残念ながらあまり正確に理解されていないかもしれません。ガバナンスを規律づけることで経営判断原則が働き、経営者がリスクを取って経営手腕を振るったときに、結果的にうまくいかなかったとしても善管注意義務違反としてその法的責任を問われる可能性を低減できる。すなわち、経営者に適切な規律づけをすることにより、リスクを積極的に取る経営がしやすくなるという考え方です。

 もっとも、企業の方々としては『当然、取るべきリスクを取り、アントレプレナーシップを発揮している』との実感があると思います。しかし、グローバル競争の中で戦っていくためには、もう一段リスクテイク等を発揮しやすい環境をつくっていかなければいけません」

―― 研究会の資料に、取締役会の実効性評価について記載されていますが、その結果はどうですか。

「企業の方とお話させていただくと、コーポレートガバナンス・コードを一種の規制対応のような形で捉え、『形式面のみ対応すれば十分だ』と考えていたり、あるいは監督側の在り方については議論するものの、執行側が変わっていかなければいけないという意識が薄いと感じることがあります。その要因として、ガバナンス強化が企業価値向上に結び付くとの実感がなく、かつ取締役にとって難易度の高い項目が増え、どのように取り組むことが必要なのかが分からないということもあろうかと思います。

 また、取締役会で中長期的な経営戦略の議論が不足しているのではないかとの指摘がかねてあります。取締役会の実効性評価では、中長期的な経営戦略の議論が不足している点が課題として認識されています。コロナ禍を受けて取締役会として今後はどういうことが大事になるかについて企業にアンケートをしましても、中長期的な経営戦略が課題として浮かび上がってきます。そこにどうアプローチしていくかについて、検討が必要だと考えています」

.....


■安藤 元太(あんどう・げんた)
経済産業省産業組織課長
2004年東京大学大学院工学系研究科修了。2004年から経済産業省に勤務し、経済産業政策局、製造産業局、大臣官房総務課、米・コロンビア大学留学を経て、2012年から資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会事務局で電力システム改革を担当。 2016年から産業組織課でCGSガイドラインの策定、役員報酬税制の改正、スピンオフや株式対価M&Aなど事業再編の円滑化を図る税制改正等を担当。大臣官房秘書課政策企画委員を経て2020年7月から現職。

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