[Webインタビュー]

(2013/08/07)

【第27回】PEファンドの動向を読む――グローバルな視点から

 阪本安生(野村プライベート・エクイティ・キャピタル*社長)
  • A,B,C,EXコース

中国、アジア新興国は森でなく木を見る時代に

―― プライベート・エクイティ(PE)ファンドを取り巻くグローバルな環境について、どのようにご覧になっていますか。

 「世界の金融市場は緩和傾向がずっと続いてきていますから、グローバルにもPE市場を含む金融市場が活発になってきていることは、誰しもが認めるところだと思います。ただ、ここにきて米国のQE3(連邦準備制度理事会による量的金融緩和政策の第3弾)の出口問題もあって、短期的にはマーケットがしぼみ始めています。さらに加えて、中国の信用収縮の動きがありますので、どちらかというと短期的には世界的にも金融収縮の動きといいますか、少し後戻りしているのが今の状況です。しかし、中長期的に考えた場合は、先進国、とりわけ米国や日本を中心とした経済の回復がはっきりとした流れとなってきています。ですから、足元たまたま少し弱くなったとしても、中長期的にはグローバルに経済の復活が功を奏して、タイムラグを置いてPE市場もそろそろ動き始めてくるのではないかと見ております」

―― PEファンドに対する投資家のマインドは、現状ではどうですか。

 「PEファンド投資家のマインドについては、日本とそれ以外の国、たとえばアジアとか米国では全然状況が違っています。日本市場では、正直に言いましてPEファンドに大きく資金を投資しようという状況ではなく、どちらかというと様子見ですね。世界最大の機関投資家である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が今後オルタナティブ投資に対してどういう決定をするのか。7月に入って有識者会議が開かれており、オルタナティブ投資への割り振りを増額してくるとするならば当然、投資家としてもポートフォリオを変えていかなければいけないという状況になります。一方で米国やアジアではPEファンド投資の動きが活発です。米国では早くからPEファンドが市民権を得ていますが、とりわけ最近米国で目立ってきているのが海外におけるPEファンドによるインフラ投資の拡大です」

―― 具体的にはどういうものですか。

 「例えば、米国有数のPEファンドであるブラックストーンによるウガンダのダム建設への投資などがそれです。PEファンドというとバイアウトが頭に浮かびますが、大型のインフラ、例えばダムに投資をし、そこから入ってくる売電収入をインカムのソースにする。こういうケースが今、米国では急速に増えてきています。もちろんバイアウト後、当該企業の価値を高めて上場したり、事業会社に売却したりするという投資もあるのですが、PEファンドに投資をする年金の立場から見て一番大きなポイントは何かというと、中長期的なインカムを保証してくれることです。そうした投資家のニーズに応えるという意味で米国のPEファンドは今後、高い経済発展が見込まれる開発途上国のインフラ投資に積極的になっているのだと思います。

 一方、中国についてはまたちょっと別の要因があります。ご存知のように、中国政府は過剰な流動性に対して規制を加えようとしています。ところがあの国の場合は、国オリエンティッドな設備投資などに関してはかなり規制を加えてきている一方で、個別の民間企業はかなり成長力を高めてきています。そうした企業やPEファンドが海外のM&Aを活発化させているのです。例えば、今年5月にフランスのバカンスサービス会社クラブメッド の大株主である仏アクサ・プライベート・エクイティと中国の民営ファンド、復星国際 がクラブメッドの経営陣とともに同社買収を計画していると発表したというのもその一例です。これは中国だけではありません。アジアの新興国の企業やPEファンドが海外企業のバイアウトに力を入れ始めてきています。要はアジアの新興国の場合は、民間の活力が以前に比べて非常に大きくなってきているということです。中国はGDP成長率が7%を割るかもしれないと言われています。したがって、中国経済を森として見ると、これからはネガティブだという言い方になってしまうのですが、そうではなく、これから中国は個で見ていかなければいけない。森ではなく木を見ていかなければならない時代になるという気がします。それはアジアの新興諸国についても同じです。一方、日本は逆に失われた十数年間の中で経済全体がデフレ不況でだめだったから個で見ましょうと言われながら、個で見てもいまひとつパワーが足りなかった。それが今は逆にアベノミクスで森を見ましょうとなっている。中国やアジアの新興国の場合とは逆です」

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