[特集インタビュー]

2021年5月号 319号

(2021/04/15)

【三菱ケミカルHD 小林喜光会長が語る】大変革期における企業戦略

―― 変革への意欲を失った日本経済をどう立て直す

小林 喜光(三菱ケミカルホールディングス 取締役会長)
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小林 喜光(三菱ケミカルホールディングス 取締役会長)

写真提供: 三菱ケミカルホールディングス

小林 喜光(こばやし・よしみつ)

1946年生まれ。1971年東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了後、ヘブライ大学物理化学科、ピサ大学化学科留学を経て、1974年三菱化成工業(現:三菱ケミカル)入社。2007年に三菱ケミカルホールディングス社長。2015年より現職。2015年から2019年まで経済同友会代表幹事。経済財政諮問会議、産業競争力会議、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。現在は、規制改革推進会議議長、日本銀行参与のほか、カーボンリサイクルファンド会長、日本化学会会長、日本工学アカデミー会長、みずほフィナンシャルグループ社外取締役も務める。理学博士。

脳の外部化という変革がもたらすもの

―― 小林会長は現在を人類史上最大の変革期と言っておられますね。

 「地球に最初の生命が誕生したのは35~40億年前と言われています。単細胞のアメーバのようなものからその後の進化によって哺乳類が生まれ人類まできた。

 その人類の21世紀まで続く約200年間の経済成長は、産業革命によりスタートしました。その原動力ともなった内燃機関は、人の手や足を模倣して外部化したと言えるもので、それを使って蒸気機関車や自動車を作り出すことでスピーディーに人や物が運べるようになりました。石油や石炭といった化石燃料を燃やし、人類にとって高い利便性を得たのが産業革命でした。その代償として、環境問題などの社会課題が噴出してきています。

 20世紀になると、今度は人の脳を模倣したコンピューターが発達し、人の脳よりはるかに処理能力が高く、大量の情報が処理できるようになりました。さらにAI(人工知能)も登場するなど、現代は脳を外部化する時代になったと言うことができます。

 GAFAM*1とかBAT*2と言われる、データ解析や量子コンピューティング技術を持った一握りの人や企業に富や権力が集中し、GAFAMだけで750兆円ぐらいの時価総額になっています。ちなみに、日本の一部上場企業全ての時価総額を合計しても700兆円しかないわけで、わずか数社のネット企業が、時価総額で日本を凌駕するぐらいの強烈なインパクトをもたらしているのです。人間が作り出したとはいえ脳の外部化という変革は、これまでの産業革命をはるかに凌駕する大きなものです。

 人工知能研究の権威であるレイ・カーツワイル博士は、2045年にAIの能力が人類を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が来ると提起しています。人類は万物の霊長で、これが進化の最終形だと思っていたものが実は『人プラス』的な存在が創出され、それとどのように共存していくかいう社会になると思う。その中で、我々は人としてどう生きていくのかという根源的な存在価値の意味を見つめ直す時が来ていると思います」

*1、2  GAFAM(Google、Amazon.com、Facebook、Apple、Microsoft)、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)


新型コロナのパンデミックがつきつけた問題意識の覚醒

 「新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界経済が大きく揺らいでいます。産業革命によって、利便性は得たけれど資源を無尽蔵にあるものとして大量消費し地球を汚し続けています。さらに、新型コロナウイルス対策で米国や日本も空前の大規模な財政出動を行いました。『善と悪の経済学』という著作がベストセラーになったチェコのトーマス・セドラチェクという経済学者が、今は、GDP(グロス・ドメスティック・プロダクト)を増やすために、債務(デット)を使っている、GDPはグロス・デット・プロダクトというべき状況になっていると言っています。その債務は誰がどのようにして最終的に決着を付けるのか、今後、新型コロナウイルス禍だけでなく、巨大地震や、カーボンニュートラルに象徴される環境問題など様々な問題に備えなければならないわけで、膨張した経済が本当に持続可能なのか、見直しを迫られているとも言えます。

  石炭や石油に含まれる炭素は、

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