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(2023/08/10)

JICキャピタルがJSRを「攻めの買収」、日本の半導体産業活性化は図れるか

マール企業価値研究グループ
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 2023年6月、政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC、経済産業省所管の認可法人)の完全子会社であるJICキャピタル(JICC)は、半導体材料大手のJSRに対してTOBを実施すると発表した。現時点では23年12月下旬にTOB開始が予定されており、買収総額は1兆円程度になるとみられている。JSRの取締役会はTOBに賛同を表明しており、水面下で両者の交渉が前向きに進んできたことを窺わせる。

 JSRの旧社名は日本合成ゴムである。事業体制の抜本的な変革に伴い、21年に祖業である合成ゴム事業を売却し、デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業をコア事業として発展を遂げてきた。いわゆる半導体材料の大手企業で、同業ライバルは東京応化工業、信越化学工業、住友化学などである。

 直近の決算資料(23年3月期)によると、売上収益は前年比+20%と好調だったものの純利益は同-58%で大幅減益。半導体市場の大幅減速やディスプレイ市場の需要回復の遅れ、原材料費の増加などが要因で、デジタルソリューション事業が足を引っ張ったようだ。一方でライフサイエンス事業は大幅増収・増益となっており、同市場の成長取り込みに奏功しているように見受けられる。

 半導体材料を含むデジタルソリューション事業が不振とはいえ、主要材料であるフォトレジスト(半導体配線の製造工程で使用)では世界シェアは首位(21年時点で26%)である。いうまでもなくフォトレジストはJSRの主力製品であり、同製品の市場規模は26年には30億ドルに達するとみられており、21年から60%近い拡大となる。ただ、先に見た同業ライバルのシェアも相応に高く、日本勢同士の競争激化で業績の伸びにも限界があり、業界再編を期待する向きもあったようだ。

 こうした中で、…


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