M&Aフォーラム賞選考委員会は、2019年度(令和元年度)「
第14回M&Aフォーラム賞」に4作品を選定し、10月7日授賞式が行われた。
「
M&Aフォーラム」は、2005年の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受け2005年12月に設立され、今年で15年目を迎える。
理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後の我が国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。
「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。
第14回を迎えた今回は、法律、経済、経営、税務・会計、ファイナンスなどをテーマにそれぞれの観点で掘り下げた、14の書籍・論文の応募があった。
選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ専務理事)の3人の委員によって、
①作品が創造性に富んでいること
②理論的、実証的な分析を行っていること
③実用性・実務への応用可能性が高いこと
④問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの
⑤M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの
などが主な基準で審査が行われた。
岩田選考委員長による講評
岩田氏 岩田選考委員長は、「本年の特徴は、買収後の人材マネジメントに関連したテーマとスタートアップ企業のM&Aの在り方を論ずる質の高い著作や論文が寄せられたことでした。とりわけ、分析手法が緻密で洗練された作品が多かったように思います。本年も優秀な応募作品の順位付けを巡って、最後まで熟議を重ねました」
として、次のように講評を述べた。
「M&Aフォーラム賞正賞『RECOF賞』を受賞した岩崎康大、池田直史、井上光太郎著『労働者保護とM&Aのパフォーマンス -国際比較分析-』は、M&Aの被買収企業の所在地の法制度の相違が、M&Aのパフォーマンスに与える影響を国際比較分析したものです。
本論文における実証分析は、労働者保護に関する4つの指標と主成分分析を踏まえた指標の作成から始まり、セレクション・バイアスを考慮した計測方法の採用に至るまで用意周到であり、説得力に富んでいます。世界各国の4884件の大型M&Aをサンプルに取り上げ、各国における労働者保護の在り方が、M&A後の企業の組織最適化行動への影響を通じて被買収企業の選択と価値創造に影響を与えていることを実証しています」
と高く評した。
「天野良明著『負ののれんの会計処理に関する提言 -負の超過収益力との関連性の観点から-』は、被買収企業の取得価額が純資産を下回る『負ののれん』について、国際会計基準が推奨する『即時当期利益計上』とするのではなく、負の超過収益力の効果(マイナスのシナジー効果)が及ぶ期間にわたり『規則的に償却』すべきであると提案しています。
本論文の優れた点は、負ののれんの発生源について、情報の非対称性による『割安購入』によるのではなく、当該企業の長期的な『負の超過収益力』にあることを実証したことにあります。日本では負ののれんを計上するM&A案件が多いという状況の下で、負のれん会計処理の在り方に一石を投じた論文として高く評価しました。
木俣貴光著『M&A戦略の立案プロセス』は、日本企業にありがちな受け身のM&Aを脱し、プロアクティブなM&A戦略に基づくM&Aの実行を説いています。
M&Aの前提となる経営戦略をサーベイした後で、それをM&A戦略に落とし込んだ上で、M&Aマネジメントのルールを紹介しています。そこでのM&A戦略として、15の類型に分けて戦略の在り方を論じており、本書に引用されている32のM&A事例は、成功例、失敗例を問わずM&A担当部門や経営者にとって貴重な資料といえます。
小川周哉、竹内信紀編著『スタートアップ投資ガイドブック』は、シリコンバレーに代表されるアメリカや日本におけるスタートアップ企業に対する、日本企業による投資を中心テーマに据えた優れたガイドブックであります。
シリコンバレーにおけるエコシステム、インキュベーター、アクセラレーター、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル、リード投資家の役割など懇切な解説がなされており、とりわけ、米国と日本におけるスタートアップ企業に対する投資に関するフレームワークの背後の考え方の違いが浮かび上がる解説がなされています。
また、『オープンイノベーション』を活用しようとする場合における、業務提携、共同開発についても丁寧に解説されている。とりわけ、システム開発の委託の在り方については、従来型の『ウオーターフォール型システム開発委託』と対照的な『アジャイル型システム開発委託契約』の解説は秀逸であります」
と締めくくった。