要請に「ゼロ回答」ではすまない 東京証券取引所が上場企業に
株価純資産倍率(PBR)の向上を要請したのを受け、市場関係者の間からは最終的に企業の合併・買収(M&A)が活発になるのではないかとの観測が聞かれる。当面は自社株買いに踏み切る企業が相次いでいるが、自社株買いの株価押し上げ効果は限られるからだ。東証の要請に「ゼロ回答」ではすまないと感じている多くの企業は、何らかの目立った「成果」を出さざるをえなくなっている。
東証が上場企業にPBRの引き上げを要請したのは、3月31日のこと。対象はプライム市場とスタンダード市場に上場する約3300社だった。正式には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」と称している。罰則のない要請とはいえ、①自社の資本コストや資本収益性の把握②取締役会での現状の評価・分析③改善に向けた計画の策定・開示――を継続的に実施するように求めており、企業が誠実に対応しようと思えば、それなりに負荷もかかる。
こうした要請に至ったのは、東証が2022年4月に実施した市場区分見直しが「看板の付け替えにすぎず、これといった成果を上げるに至っていない」と厳しく評価されているためだ。どう改革の実をあげるかは、2022年7月に初会合を開いた「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」で議論を続けてきた。
上場企業の48%が解散価値割れ その会議でやり玉に挙がったのが、投資対象としての日本企業の魅力の乏しさだった。何しろ4月末現在ではプライム上場企業では1830社の47.5%に当たる869社がPBR1倍割れになっている。スタンダード上場企業はもっと悪く、1431社の61.1%に当たる874社がPBR1倍割れになっている。
PBR1倍割れとは、
■ 筆者履歴
前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。
22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。
著書に『株式投資2023~不安な時代を読み解く新知識』『深掘り!日本株の本当の話』(ともに2022年)、『株式投資2022~賢い資産づくりに挑む新常識』『株式市場の本当の話』(ともに2021年)、『NISAで得したいなら割安株を狙え!』(2013年)、『日本株転機のシグナル』(2012年)、『日経新聞をとことん使う株式投資の本』(2006年)、『株式市場を読み解く』(2005年)、『こんな株式市場に誰がした』(2003年)、など。