日本に参入するアクティビストは増加傾向 前回の寄稿でも触れたが、日本に参入する
アクティビストは増加傾向にあるようだ。アイ・アールジャパンHDの集計によると、日本に参入しているアクティビストファンド数は 2021年に56社だったのが、2022年には68社になった。同じ期間に、アクティビストファンドによる株主提案の提出件数は同31件から58件と、過去最多となっている(図表1)。
アクティビスト動向を考えるに当たって切り離して考えられないのは、東証が打ち出した「
PBR1倍割れ」是正に関連する施策である。東証は2023年1月25日に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を開催し、継続的にPBRが1倍を割っている企業について、「経営陣や取締役会において自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・時価総額の評価を議論の上、必要に応じて改善に向けた方針や具体的な取り組み、その進捗状況などを開示することを強く要請する」と打ち出した。東証が2月15日のフォローアップ会議に提出した「資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請の内容(案)」は、PBRの改善策の開示方法として、東証が新たに提供するフォーマットを利用した開示のほか、コーポレートガバナンス報告書への記載を挙げた。
筆者は、2月に中東・欧州投資家を訪問したが、中東・欧州でも現在、約半数のプライム上場企業のPBRが1倍割れとなる中、東証の新たな施策が注目されていた。東証の施策に、日米の中央銀行の金融引き締め予想も加わり、2月は日本企業のバリュー株がグロース株に対して大きくアウトパフォームした。
【図表1】 アクティビストファンドによる日本企業への株主提案の提出件数の推移
| 株主提案 | 買収提案 | ESG株主提案 |
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2014 | 3 | | |
2015 | 2 | | |
2016 | 5 | | |
2017 | 9 | | |
2018 | 13 | | |
2019 | 16 | 2 | |
2020 | 26 | 2 | 1 |
2021 | 25 | 3 | 3 |
2022 | 53 | | 5 |
出所: アイ・アールジャパンHD資料よりみずほ証券エクイティ調査部作成
オアシスのフジテックへの株主提案は「一部」成立 大きな注目を浴びたのが2月24日に開催されたフジテックの臨時株主総会だ。香港のオアシスが提案していた社外取締役5人の解任案のうち3人が可決される一方、新たな社外取締役6人を送り込む提案のうち4人が可決された(図表)。賛否はいずれの提案も50%前後で、ぎりぎりの可決だった(図表2)。
オアシスは2022年6月の定時株主総会で、創業家出身の内山高一前社長を批判して再任反対の株主提案を行ったが、会社側が内山前社長の取締役再任議案を取り下げた後、内山氏が取締役でないまま会長に就任したことに対して、「社外取締役が監督責任を果たしていない」などと主張していた。オアシスを含む外国人保有比率は43%だったが、ISSがオアシスの全提案、グラスルイスが一部の提案の賛成推奨を行った。
本件は日系の運用会社がどのような議決権行使を行うかが鍵だったが、社外取締役の経営監視機能を重視する日系の運用会社がオアシスの提案に賛成したようだ。フジテックは社外取締役比率が66.7%、女性取締役比率が22.2%などと日本企業としては「ガバナンス先進企業」だと主張していたが、結果としてはガバナンスの形式よりも実質が問われることになった。
また、オアシスはフジテックの取締役会のダイバーシティが不十分と指摘していたが、オアシスが送り込むことに成功した社外取締役は外国人が2人+日本人女性が2人となった。オアシスにとっては、2020年4月のサン電子の株主総会で取締役4人の解任と5人の取締役選任に成功して以来の成功となった。フジテックを巡る騒動でのオアシスの一部勝利で、日本におけるアクティビスト活動は活発化するだろう。
【図表2】 フジテックの臨時株主総会での議案別の賛成率
議案 | 氏名 | 役職 | 就任日 | 賛否 | 議案への賛成率(%) | グラスルイスの賛否 | ISSの賛否 |
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会社提案の新社外取締役 | 岩﨑 二郎(オアシスが独立性を問題視) | 元TDK専務 | | 否決 | 46.01 | 賛成 | 反対 |
海部 美知 | コンサル会社経営 | | 否決 | 45.11 | 反対 | 反対 |
社外取締役解任のオアシスの提案 | 杉田 伸樹(指名報酬委員会委員) | 立命館大学特任教授 | 2017年6月 | 可決 | 57.23 | 賛成 | 賛成 |
山添 茂(指名報酬委員会委員) | 元丸紅副会長 | 2018年6月 | 可決 | 57.24 | 賛成 | 賛成 |
大石 歌織(オアシスが独立性を問題視) | 弁護士 | 2022年6月 | 可決 | 50.64 | 賛成 | 賛成 |
遠藤 邦夫 | 元ホンダ監査役 | 2019年6月 | 否決 | 49.77 | 反対 | 賛成 |
三品 和広 | 神戸大学大学院教授 | 2022年6月 | 否決 | 46.79 | 反対 | 賛成 |
引頭 麻実 | 元大和総研専務理事 | 2021年6月 | 直前に辞任 | | 反対 | 賛成 |
■筆者プロフィール■

菊地 正俊(きくち・まさとし)
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング及びインスティチューショナル・インベスター誌ストラテジストランキング2017~2020年1位。著書に『アクティビストの衝撃』(中央経済社)、『日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』(日本実業出版社)、『良い株主 悪い株主』(日本経済新聞出版社)、『日本企業を強くするM&A戦略』『外国人投資家の視点』(PHP)『TOB・会社分割によるM&A戦略』『企業価値評価革命』(東洋経済)、訳書に『資本主義のコスト』(洋泉社)、『資本コストを活かす経営』(東洋経済)がある。