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(2023/06/29)

火種が燻るアルプスアルパインの経営統合~世界の市場関係者が再注目、少数株主の利益は守られたのか?

前田 昌孝(マーケットエッセンシャル主筆、元日本経済新聞編集委員)
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ポイント
〇2018年の旧アルプス電気とアルパインの経営統合を巡る裁判は現在、東京高裁で係争中
〇オアシスなど原告らは、株式交換比率の算定手法が少数株主にとって不利だったなどと主張
〇高裁の判断には海外投資家も注目。資本市場への向き合い方を日本企業に再考させるイベントになる
経営統合の「条件」をめぐる熱い戦い

 2018年12月5日の臨時株主総会で承認され、もう4年半も経過しているため、多くの市場参加者は「済んだこと」と受け止めているかもしれないが、旧アルプス電気(現アルプスアルパイン)と子会社アルパインとの経営統合が適切な条件で実施されたかどうかをめぐっては、なお法廷で熱い戦いが繰り広げられている。

 訴訟を提起した原告は北越コーポレーション、熊谷組、ツルハホールディングス、そしてフジテックに株主提案をするなど積極的な活動で知られている香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント。被告は経営統合をした旧アルプス電気とアルパインだ。

 アルパイン株式を約9%保有していたオアシスは、1対0.68(アルパイン1株に対してアルプス電気株を0.68株割り当てる)の株式交換比率が、アルパインの少数株主にとって著しく不利だったとの立場から、両社の経営統合が「一般に公正と認められる手続きを踏んでいない」として複数の問題点を指摘している。

 一審の東京地裁が2022年3月24日に下した判決は、オアシスの請求を棄却するとの内容だった。オアシスは過去の判例で示された考え方に反しており、法解釈も誤っているとの観点から、控訴審の東京高裁に臨んでいる。

 筆者は会社法や金融商品取引法の専門家ではないので、法律的にどちらが正しいのかを主張する立場ではないが、仮にアルパインの株主だったら、もっと少数株主の利益に配慮してほしかったと感じるところはある。実際、経営統合を承認した4年半前の株主総会がMOM(マジョリティー・オブ・マイノリティー)、つまり利害関係がある大株主を除く一般株主だけの採決だったら、議案は否決されていた可能性もある。

 今回のような経営統合手続きを許容する法律に不備があるのか、判決に問題があるのかはわからないが、少数株主だったら看過できないと感じる点を述べてみたい。

TOBを実施してほしい

 特定の投資家がアルパイン株式を買う理由は、基本的には投資先企業の将来性に期待し、配当や値上がり益を享受したいということであろう。投資先の事情で希望が叶う前に株式を手放さなければならないとすれば、十分に利益を上乗せしてほしいと考えるはずだ。

■ 筆者履歴

前田 昌孝

前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。
22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。
著書に『株式投資2023~不安な時代を読み解く新知識』『深掘り!日本株の本当の話』(ともに2022年)、『株式投資2022~賢い資産づくりに挑む新常識』『株式市場の本当の話』(ともに2021年)、『NISAで得したいなら割安株を狙え!』(2013年)、『日本株転機のシグナル』(2012年)、『日経新聞をとことん使う株式投資の本』(2006年)、『株式市場を読み解く』(2005年)、『こんな株式市場に誰がした』(2003年)、など。

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