[Webマール]

(2024/02/06)

18年ぶりのTOB・大量保有報告制度の見直しと残された課題

池田 唯一(大和総研常務理事)
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 金融庁の金融審議会では、専門のワーキング・グループを設けて、公開買付(TOB)制度・大量保有報告制度等のあり方について幅広い検討が行われ、2023年12月にその報告書が取りまとめられた。これを受けて、金融庁は、2024年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針で、改正法が成立すれば、両制度にかかる18年ぶりのまとまった改正となる。

 報告書では、企業の買収等をめぐる近時の動向などを踏まえて、様々な制度の見直しが提言されているが、今後の法案化作業や立法化後の実際の運用に向けては、なおいくつかの課題が残されている。また、報告書では、ワーキング・グループでかなり突っ込んだ議論がなされながらも、法制化の提言には至らなかった論点が少なからず存在する。これらについて引き続き制度化を目指すのであれば、その多くについて会社法制面での検討が不可欠になると考えられ、速やかな対応が望まれる。

 金融庁の金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(WG)では、公開買付(TOB)制度・大量保有報告制度等のあり方について幅広い検討が行われ、2023年12月にその検討結果がWGの報告書として取りまとめられた。公開買付制度と大量保有報告制度は、企業の買収等に関する証券取引法制の根幹をなすものだが、これらについては2006年に大幅な改正が行われて以降、大きな改正は行われて来なかった。今回の報告書を受けて、金融庁は、2024年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針だ。改正法が成立すれば、両制度にかかる18年ぶりのまとまった改正となる。

 報告書では、企業の買収等をめぐる近時の動向や2006年の法改正以降の実務の経験などを踏まえて、制度の細目にかかるものも含めて様々な見直しが提言された。そのうちの代表的なものを見てみよう。

企業の買収等をめぐる近時の動向などを踏まえた制度の見直し

 まず、報告書では、公開買付制度について、現行、取引所外の取引により株券等(注1)を取得して株券等所有割合が3分の1超となる場合に公開買付けの実施を義務付けている、いわゆる3分の1ルールを、取引所内の取引により株券等を取得する場合にも適用すること(あわせて、3分の1の閾値を30%に改めること)が提言された。近時、取引所内で短期間のうちに株券等の買付けが行われ、株券等保有割合が3分の1超となるにもかかわらず、買付者から、株券等取得の目的や想定する取得数量・価格、買付け後の経営プランなどについて十分な情報発信が行われない、といった事例が生じていることを考えると、見直しは自然な流れだと言えよう。


■筆者プロフィール■

池田 唯一(いけだ・ゆういち)

池田 唯一(いけだ・ゆういち)
株式会社大和総研常務理事。1982年、大蔵省に入省。国際通貨基金(IMF)エコノミスト、金融庁総務企画局企業開示課長、市場課長、企画課長、総務企画局参事官、総務企画局審議官などを経て、2014年~2018年に金融庁総務企画局長、2018年~2020年に日本銀行理事を務める。2022年4月から現職。大蔵省・金融庁において市場・企業開示行政に長く従事。企業開示課長時代には、2006年のTOB・大量保有報告制度の見直し作業に携わる。


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