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2020年5月号 307号

(2020/04/15)

M&Aにおける混合対価の活用促進に向けて

―その意義と制度的な課題―

浅岡 義之(西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士)
I. はじめに

 量的・質的金融緩和政策が続く中、日本企業の株価水準もある程度それに呼応して改善してきたが(注1)、一方で、日本企業においては過大な内部留保(利益剰余金)(注2)、特に現預金のかたちでの留保の増加が指摘されている(注3)。これと並行して産業構造の急速な変化の下で、選択と集中、無形資産を含む資本財の獲得の重要性が高まるとともに、従来的な企業に代わりスタートアップ、ベンチャー企業が産業の中心的プレイヤーとして現れることも珍しいものではなくなった。このような中で、企業の戦略的投資活動の一環としてさらなる活用が期待されるのが買収企業(以下「P社」)の株式を対価として用いる株式対価M&A、さらに、これと金銭対価を組み合わせた混合対価M&Aである。

 ところで、昨年6月、経済産業省は、旧MBO指針(注4)を全面改定するかたちで「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」又は「指針」)を公表し、実務においても、早速、独立委員会の組成・運営等をはじめ公正M&A指針を念頭においた取組みが本格化している。この公正M&A指針の作成過程においても、金銭対価M&A(典型的には金銭対価公開買付け+キャッシュアウト)のみではなく、株式交換や合併のような組織再編を含む株式対価M&Aも公正M&A指針の対象とすべきか、また、対象とすべきとすれば、取引の公正性担保の見地から望ましい実務にどのような差異があり得るかが一つの論点となった(注5)。もっとも、対価の差異に焦点を当てた議論が尽くされるには些か時間が足りず、今後の検討に持ち越された感は否めない。

 筆者としては、公正性の確保とともにグローバル水準での取引の選択肢としても、また、M&Aにおける「迅速果断な意思決定」(攻めのガバナンス)を促す観点からも、経営者心理及び制度の両面から株式対価M&Aの活用が促されることが望ましいと考えるが、そのためには、さらに一歩進んで混合対価M&Aの活用促進を図ることが不可欠に思われる。そこで、本稿では、株式対価M&A、また、日本においてはほとんど活用されていない混合対価M&Aにつき、その意義と制度的な課題についておさらいしてみたい。


II. 株式対価の特徴と対価の選好

 M&Aにおける株式対価の特徴は、それが価額(金銭的な価値)を基準とする取引ではなく、リスク資産同士の比率交換的な取引であることであり、そのために対象会社(以下「T」)の株主による投資がかたちを変えて継続するという点にある。これは、金銭対価が、価額を基準とし、取引後においてP社とT社株主との関係性の継続を必ずしも前提としないために、時に「手切れ金」などともいわれることとの最大の違いでもある。

 価値が実質的に同じとした場合に、M&A対価がその種類によってどのような差異をもたらすかは、当事者の立場やおかれた状況により異なる。簡単なところでは、T社株主が金銭対価を選好する場合、それは、主に金銭の流動性(非常に高い交換可能性)によるものである。他方、T社株主が取引後における投資継続を重視する場合には、一旦、価値を実現させる理由はないから、株式対価が選好されることになる。

 一方、P社の選好はもう少し複雑で、

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