[視点]

2013年6月号 224号

(2013/05/15)

濫用的会社分割と債権者保護制度の多様化

 北村 雅史(京都大学大学院法学研究科 教授)
  • A,B,EXコース

一 はじめに

   濫用的会社分割とは、分割会社が、優良事業や優良資産を設立会社または承継会社に承継させるとともに、分割会社の債権者を設立会社等に債務の履行を請求することができる債権者と当該請求をすることができない債権者(以下「残存債権者」という)とに恣意的に選別し、残存債権者を不当に害する会社分割をいう。

   濫用的会社分割に関して、裁判例は、民法の詐害行為取消権や倒産法の否認権のほか、法人格否認の法理や会社法22条1項の類推適用によって、残存債権者の保護を図ってきた。このうち詐害行為取消権については、会社分割に適用できるかどうか疑義があったものの、近時、最高裁判所は、新設分割における残存債権者に詐害行為取消権の行使を認める旨判示した(以下「本件最高裁判決」という。最判平成24年10月12日金融・商事判例1402号16頁)。

   一方、法制審議会が平成24年9月7日に採択した「会社法制の見直しに関する要綱」(以下「要綱」という)では、残存債権者のための新しい救済制度の導入が提案されている。新しい救済制度は詐害行為取消権等に加えて導入することが企図されているが、要綱の提案が実現されると、目論見通り会社分割における残存債権者の保護制度が多様化することになるのであろうか。

二 分割会社の債権者の保護

   単独の新設分割でいわゆる物的分割型のもの(本件最高裁判決を含め濫用的会社分割が問題となるのはほとんどこのパターンである)を前提に考えてみよう。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事