[視点]

2013年7月号 225号

(2013/06/15)

企業再編を成功させるために何が必要か

 矢部 謙介(中京大学 経営学部 准教授)
  • A,B,EXコース

1. 経営戦略を実現するための企業再編

   1990年代末以降、日本においても企業再編(注1)が活発化し、今日では経営戦略を実現する手段の一つとして日本企業に定着している。近年のM&A(合併・買収)で目立つのは、国内同士(IN-IN)の案件もさることながら、ソフトバンクのスプリント・ネクステル社の買収や武田薬品工業によるミレニアム社およびナイコメッド社の買収などに代表されるような、国内企業が海外企業を買収するIN-OUTの大型案件である。国内市場の成熟化に伴い、多くの企業が成長の源泉を海外に求めようとしていることで、こうしたIN-OUT型のM&Aが大きく増加していると考えられる。

   それ以前の企業再編の動向について見てみると、特に1990年代末から2000年代初頭にかけて大きく件数を増やしたのは完全子会社化や事業譲渡であった。1999年改正商法において株式交換制度による完全子会社化が認められて以来、ソニーによるソニー・ミュージックエンタテインメントなど上場子会社3社の完全子会社化を皮切りに、多くの日本企業が上場子会社の完全子会社化を行った。こうした動きの背景には、自社グループの中核となる事業を中心に据えたグループ連結経営を行おうとする企業戦略上の要請があったと考えられる。また、事業譲渡に関しては、非中核事業をグループ外に切り離し、中核事業に経営資源を投入するために行われたと考えるのが自然である。従って、完全子会社化と事業譲渡は、2000年代にかけて行われた事業の選択と集中を象徴的に表す企業再編であると考えられる。

   その後、2000年代半ば以降に件数を大きく伸ばしたのは、上場会社同士の資本参加や出資拡大といった、いわば「部分買収」であった。1990年代以降、日本企業の金融機関との株式持ち合いは解消に向かったが、こうした部分買収の増加は、日本企業同士の新たな戦略的提携関係が生まれつつあることを示している。

2. 企業再編は対価に見合う取引なのか?

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