[視点]

2022年5月号 331号

(2022/04/11)

Well-Being(快適)実現を目指すシステムへ

松山 健士(経済社会システム総合研究所<IESS> 理事長、内閣府参与)
  • A,B,EXコース
 世界中が、ロシアの暴挙に驚き、ウクライナの惨状に心を痛めている。
 振り返れば、1989年のベルリンの壁崩壊、91年のソビエト連邦崩壊を経て、フランシス・フクヤマが「歴史の終わり」で展望したように世界の民主主義化、市場経済化は大きく進展するかに見えた。確かに、多くの混乱を伴いつつも、東欧諸国等で民主的選挙によって政権が樹立されるなど目覚ましい変化が生まれた。しかし、その一方、時間の経過とともに、ロシア、中国では権威主義的な統治機構が強化され、中国の経済大国化もあいまって、西側諸国とロシア、中国との緊張関係は高まりをみせてきた。

 もちろん、今回のロシアの行動はこうした経緯を考慮しても想定外のものである。しかし、こうした事態を生みかねない素地として、西側先進国においてさえ、希望を持って目指すことのできる社会の姿、政治経済の仕組みが見えにくくなっていることが挙げられるのではないか。例えば、昨年1月におこった米国議会襲撃事件が象徴するように、多くの先進国で社会の分断が深まり、格差や貧困も年々大きな問題となっている。また、日本などでは経済社会の停滞が長期にわたって続いている。他方、権威主義国では権力による人権抑圧や少数民族問題などが深刻化している。

 気候変動問題やパンデミック、人口構造の変化、さらには国際的な紛争・戦争といった人類にとっての明白な危機に対処しながら、新たな価値を生み出していくために、我々はどのような政治経済社会システムを構築していくべきなのか。

 本稿では、「Well-Being Capitalism(快適資本主義)」(昨年11月に経済社会システム総合研究所(IESS)の「KAITEKI研究会」が提言)の考え方を紹介しつつ、今後の課題を考えたい。

<資本主義の構造変化>

 良い状態、良きことを意味するWell-Beingという言葉は、近年、多くの場で語られるようになった。「Well-Being Capitalism」は、課題を内包する資本主義システムを変革することを通じて、所得などの経済的価値だけでなく、良好な環境・社会などの社会的価値を含む「多様な価値」の持続的創造を目指すものである。しかし、これを実現するためには、資本主義に生まれつつある「構造変化」に対応して大きな改革が必要となる。

 まず、資本主義の「構造変化」として注目するのは次の3つである。

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