[視点]

2013年8月号 226号

(2013/07/15)

国際結婚とクロスボーダーM&A  -文化デューディリジェンスのすすめ-

 橋本 豪(西村あさひ法律事務所 ニューヨーク州弁護士 外国法事務弁護士)
  • A,B,EXコース

  クロスボーダーM&Aを、国際結婚と比較しつつ語るのを聞かれた読者の方々も多くおられると思う。かく言う筆者もその比喩を講演などでよく用いる者の一人であるが、それは、国際結婚との比較が諧謔として有効であるのみならず、本質を突くものとして参考になると考えるためである。そこで、深化する日本企業の海外進出の主要な手段としてのクロスボーダーM&Aにあたって留意するべき諸点について、国際結婚との比較も交え、考察してみたい。

   以下においては、議論を単純化するために、同国人同士の場合、夫婦それぞれの文化的背景に重大な差異がない、という前提で考えてみたい。もちろん、米国のような多民族国家では、その前提すら成立しないことがあるのは周知の通りであるが、それはひとまず措くとして、まず、結婚において最も大切なことが、相手を理解し思いやりと信頼に基づいた共同生活を営む、ということだとすると、出身国が同じでもなかなか骨の折れる作業であることは、おそらく異論のないところであると思われる。さらに、それが国際結婚であれば、まず相手を理解することにかなりの労力が必要となることも容易に想像されるであろう。そして、そのような余分な労力が必要となるのには、夫婦それぞれの文化的な背景の違いが大きな影響を及ぼしていることも、同様に推測できよう。

  ここで、「推測できる」というのが鍵ではないだろうか。厚生労働省の人口動態統計によると、婚姻件数総数に占める国際結婚の割合は2010年においては4.3%であるとのことである。すなわち、国際結婚をすると、夫婦生活において日本人同士の結婚とは趣の異なった問題が発生するのであろう、ということは、多くの日本人にとっては、当たり前のことながら、推測する、想像する、もしくは「頭でわかっている」ことなのであろう。そして、「国際結婚」を「クロスボーダーM&A」に置き換えると、実はそのままそれが当てはまる場合が多いのではないか、というのが筆者の観察である。さらに申せば、米国人の家人と生活する筆者の実感でもある。

   換言すると、日本人同士の結婚であろうが国際結婚であろうが、結婚してからが大事と言えようが、それはM&Aにおいては企業買収後の統合(Post Merger Integration、以下PMIと略)が重要だということと同様と考えられよう。さらに、国際結婚においては、結婚生活における注意点、問題点に、日本人同士の結婚におけるのとは違ったものがあることも多いにもかかわらず、国際結婚はそれほど多くないため、その認識は社会に必ずしも共有されていない、というのも、クロスボーダーM&Aにおいて、PMIの段階で予測もしていなかった問題に見舞われる、という状況と似ているのではないだろうか。

  

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