Question
M&Aの場面では主として、
DCF法に代表されるインカム・アプローチおよび
類似会社比較法等のマーケット・アプローチが採用される場面が多い。一方で、バリュエーションのアプローチとして、上記2アプローチのほか、コスト・アプローチも存在する。一見、コスト・アプローチはM&Aの場面でなじみの薄いアプローチにも思えるが、バリュエーション実務上、どのような有用性があるのだろうか。
1 評価アプローチの考え方 一般的なバリュエーションの実務では、評価アプローチは3つに大別されることとなり、本連載第1回から第4回ではインカム・アプローチを、第5回ではマーケット・アプローチを題材に取り扱ってきた。通常のM&Aの場面においても当該両手法はメインのアプローチとして採用されることが多く、3つ目のアプローチであるコスト・アプローチはあまりその姿を見せない。詳細は後述するが、当該実務には理論的な背景が存在している。第6回では、評価実務におけるアプローチの考え方を改めて整理し、3つ目のアプローチであるコスト・アプローチに焦点を当てながら、その位置付けや有用性について解説を行う。
(1) 価格の3面性 まず、
企業価値評価の世界に限らず、価格の決定方法として「価格の3面性」という考え方が存在する。この価格の3面性はそれぞれ「収益性」、「市場性」および「費用性」を示しており、評価アプローチはこの考え方に基づいて一般的に3つに大別されることとなる。この考え方自体は、広く認知されていて、例えば国際評価基準審議会(International Valuation Standards Council:IVSC)の作成する国際評価基準(International Valuation Standards:IVS)にも記載されており、企業価値評価のみならず、不動産、機械設備および無形資産といった幅広い資産(および負債)の評価の考え方にも取り入れられている。価格の3面性(収益性・市場性・費用性)とは、具体的にどのような内容を指しているのか、身近な不動産を例に解説する。
マンションの1室を想像してみよう。現在、所有しているマンションの1室の売却を検討していて、当該マンションの価値がどの程度か検討している。さて、このマンション1室の価値はどのように測ることができるだろうか。価格の3面性の考え方を当てはめてみたい。
まず、「収益性」とは、
■筆者プロフィール
佐田 和博(さた・かずひろ)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社シニアマネジャー、米国ワシントン州公認会計士、不動産鑑定士。
2011年4月三菱UFJ信託銀行入社。不動産鑑定評価業務(工場・鉄道財団評価含む)、不動産マーケット分析業務および企業不動産(CRE)戦略立案業務に従事。2016年9月デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。M&A取引における株式価値評価業務のほか、取得原価配分(PPA)に基づく無形資産評価、棚卸資産および機械設備評価業務ならびに減損テスト関連評価業務といった会計目的評価業務に従事、現在に至る。
■監修者プロフィール
中道 健太郎(なかみち・けんたろう)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー
トロント、ニューヨークでの監査経験を経て、1997年に来日。金融機関・金融商品・不良債権の評価、海外資源・インフラ案件の評価、機械設備の評価、訴訟・競争法関連の評価・証言を含め、幅広い業種・状況におけるバリュエーションサービスに従事、現在に至る。