[地域金融機関に聞く「M&Aによる地域活性化の現場」]

(2019/06/12)

【第3回】阿波銀行 地方創生推進室

聞き手:日本政策投資銀行 企業戦略部
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左から伊豫谷経営役、片山副部長兼室長、里副部長

  地域金融機関に聞く「M&Aによる地域活性化の現場」。第3回では、阿波銀行を訪問し、同行営業推進部地方創生推進室の片山哲也(かたやま てつや)副部長兼地方創生推進室長、里正彦(さと まさひこ)副部長、伊豫谷宏之(いよたに ひろゆき)経営役にお話しをうかがいました。

  徳島県は日本を代表する藍の産地として知られており、阿波銀行はそれに携わる「藍商人」の何よりも信頼を重んじるという経営哲学を引き継ぎ、「永代取引」というコンセプトでビジネスモデルを構築していますが、その永代取引を実践する重要な施策の一つがM&A業務となっています。

  そのようなM&A業務を、中小企業に焦点を絞った関東・関西における店舗戦略、四国の地方銀行4行の包括業務提携である四国アライアンスや経営塾といった阿波銀行の独自性のある取り組みを背景に推進しており、実績の着実な積み上げと銀行内への業務の浸透を図っています。

1.M&A業務の戦略的・組織的位置づけ

  阿波銀行の長期経営計画『As One~構造改革と永代取引の進化~』(2018年4月~2023年3月)において、「包括的コンサルティング営業の実践」「ファミリーサポート営業の実践」「複合取引の強化」から構成される「永代取引の実践」を基本戦略の一つとして掲げています。事業承継対応やM&A業務は一義的には包括的コンサルティング営業における主要業務であるとともに、事業承継という意味ではファミリーサポート営業でもあり、買収資金の調達など付随業務が発生するという意味では複合取引にもなるため、永代取引の実践の具体的な施策として重視されています。

  永代取引とは、すべてのお客さまと世代を超えた息の永いお取引を継続し、永続的な発展に寄与していくという阿波銀行の伝統的なビジネスモデルです。阿波銀行は徳島県を中心とした藍商人が資金を持ち寄って設立されたため、「目先の利益や浮き沈みに左右されず、何よりも長期的・永続的な信用を重んじるという藍商人の経営哲学が阿波銀行にも承継されていて、この経営哲学が反映されたビジネスモデルを要約した表現が永代取引です」(里副部長)。また、阿波銀行の行員の中には、永代取引を一般名詞と思い込んでいる方がいるほど、日常的な表現として浸透しています。

  一方で、永代取引と言いつつM&Aで事業を譲渡するのはおかしいのではないかという指摘もあるかもしれません。この点については、従来のように同族内で企業の代を重ねていくということもありますが、グローバル競争の時代において企業がM&Aを通じて外部の経営資源を活かしながら前向きに代を重ねていくことも、一つの選択肢となり得るという意識で業務に取り組んでいます。

  また、事業戦略やビジネスモデル上の位置付けもありますが、「阿波銀行の特徴としてメイン取引の取引先企業が多いなど顧客との関係の深さがありますが、それにも関わらず、取引先企業が独自にM&A案件を進めていて、事後的にその事実を知る」(片山室長)事例が近年見られるという危機感も高まっています。確かにM&Aはメインバンクに相談しにくいと考える経営者の方はいるものの、最も身近にいる阿波銀行が取引先企業の思いに寄り添った支援を行うべきであり、M&A案件を受託できたか否かよりも阿波銀行が果たすべき役割を十分に果しきれていないことへの問題意識を抱き、M&A業務について一層の強化を図っています。

  阿波銀行のM&A支援は、1990年に最初の案件が成約するなど取り組みの歴史が古く、営業推進部地域開発課の業務として始まり、お客さま営業部、本店第二営業部という組織改編を経て、2016年12月から現在の地方創生推進室で所管しています。また、これまでは兼務者で業務に従事していましたが2018年4月から専任者を配置する体制となりました。

  なお、「部署名の地方創生推進室とはM&Aの担当部署としては聞きなれない名称ですが、2016年11月から進めている百十四銀行、伊予銀行、四国銀行と阿波銀行という四国の地銀4行による包括的な業務提携である四国アライアンスと連動して業務を推進することからこのようになっています」(片山室長)。

2.M&A業務の体制・体制構築までの道程

(1)M&Aの業務体制

  阿波銀行の地方創生推進室は、営業推進部内に設置されている下図のような10種の業務を担当する22名(2019年5月末日)からなる組織です。M&A業務の専任者として2名配置しており、エリア担当で業務支援をしている情報コーディネーター9名と農業や医療介護などの業種担当4名と案件開発面で連携しながらM&A業務全般を推進しています。また、地理的には、徳島県に加えて、東京・大阪にもM&Aの担当者を配置(ただし、関東は兼務者)しています。

  先述の通り1990年の最初の案件成約以降、継続的にM&A業務に取り組んでいますが、2003年にレコフ、日本M&Aセンター及び日本政策投資銀行と業務協定を結ぶなど外部との連携も強化し、現在では阿波銀行単独の案件と外部機関との連携案件が半々程度となっています。



(2)案件状況と営業推進体制

  M&A専任者配置の初年度となる2019年3月期の実績は


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