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[【DD】グローバルM&Aにおける非財務リスクへの対応(クロール・インターナショナル)]

(2019/01/23)

【第1回】 非財務リスクとは

村崎 直子(クロール・インターナショナル・インク シニアアドバイザー)
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1.はじめに


  統計データでも裏付けられるように、今や日本においてもM&Aは当たり前の企業活動となっており、メディアでも毎日のようにM&A、特にアウトバウンドM&Aに関するニュースが報じられるようになってきました。しかし、報道をみると、必ずしも良いニュースだけではないのが実態です。インターネットで「M&A 失敗」と検索するだけでも、数々の大手企業の名前が出てきます。何をもって「M&Aの失敗」というかはそれぞれですが、おおむね、ディール前の目論見が外れて思うようなシナジーが得られなかった、あるいはシナジーどころか、多額の損失を出してしまった、というような意味合いで使われていることが多いかと思います。

  これからのシリーズでもおいおいお伝えさせていただきたいと思いますが、弊社クロールでも様々なクライアントの海外・国内M&Aにおけるデュー・ディリジェンスを行っていく中で、このままディールを進めたら大変なことになりそうだというような深刻なリスクが発見されることは数多くあります。また、中には、ディールから撤退するに値するような深刻なリスクが発覚したにもかかわらずそのままディールを進めてしまい、かつ、発覚したリスクを避けるための手立ても十分にとらなかったが故に、リスクが顕在化してしまい、買収後の事業が思うように進まず、後々後悔することになったというような例はみられます。また、ディール後のPMI(Post Merger Integration)をおろそかにしてしまったがゆえに、後になってオペレーションがうまくいかず、早期に手放してしまう例もあります。

  こういった失敗の原因としては、景気の悪化やマーケットの変化による業績の悪化という自社でコントロールしようのない理由ももちろんありますが、それだけではありません。ちょっと事前に調べていれば避けられたはず、というようなすでにリスクとして存在していたものが買収後に顕在化して失敗してしまう例も数多くあります。今回のシリーズでは、こういった様々なリスクのうち、財務リスク以外のリスクに焦点を当て、以下のようなテーマでお伝えできればと考えています。

非財務リスクにはどのようなものがあるのか。
非財務リスクに着目したデュー・ディリジェンスとはどういったものか。
非財務リスクに着目したデュー・ディリジェンスでどんなことがわかるのか。
非財務リスクを発見するために有益なリソースとしてどのようなものを活用すればよいのか。
デュー・ディリジェンスの過程で、リスクが発見されたときには、どのような対応をするべきか。ディールをあきらめるしかないのか。
デュー・ディリジェンスでは把握しきれない非財務リスクはあるのか。その場合にはどのように対処すればよいのか。

  なお、できるだけ具体的な事例を交えながらお伝えできればと思いますが、クロールの業務上、実際のクライアントの事例を開示することはできないことから、一部事実関係を変更してお伝えすることがありますことをあらかじめご了承ください。

2.非財務リスクとは

  「非財務リスク」というのは実は一般的な言葉ではありません。本稿では、M&Aの失敗の原因となりえる要素のうち、明らかな財務上の要因以外のものをまとめてこう呼ばせていただきます。

  では、M&Aの失敗の原因としてどういう事態があり得るのでしょうか。

  上述した景気の悪化やマーケットの変化というものもあれば、買収後の経営そのものの失敗というものもあり得ます。また、国によっては、買収後に政権交代が起こり、政府の方針や外資規制等のドラスティックな変化により業務運営に支障が出ることもあります。さらに買収前に起きていた不正やトラブルが買収後に表面化して、後になって財務に大きな影響を与えるということもあります。例えば、幹部による金銭的な不祥事、大規模な訴訟、深刻な労働紛争、また捜査当局や行政当局による処分・訴追などが考えられます。こういった、買収後に業績に影響を与え兼ねないリスクのうち、買収時点では財務リスクとしてとらえにくいものを、本シリーズでは「非財務リスク」と呼ばせていただきます。すなわち、買収の時点では、必ずしもその深刻度(マグニチュード)を定量的に測ることが困難な隠れたリスクを言います。ただし、非財務リスクといっても、これが表に顕在化した時には、最終的に財務リスクとして数字に影響を与え得るものでもあることは言うまでもありません。

3.非財務リスクの種類

  では、非財務リスクにはどのようなものがあるのでしょうか。以下、クロールが様々なデュー・ディリジェンスを行ってきた過程でよくみられるものを挙げてみたいと思います。

1)訴訟リスク

  訴訟リスクはわかりやすいと思いますが、莫大な訴訟費用を必要とするような大規模あるいは深刻な訴訟を抱えるリスクです。裁判が長期化してじわじわと体力をそがれることもありますが、情報漏洩や製品事故などの訴訟で、買収した会社の法的責任が認められた場合には、莫大な賠償費用を支払うことになるということもあります。これらも訴訟リスクの一つといえます。また、知的財産関係の訴訟では、訴訟の成り行きによっては、製品そのものを販売できなくなり、事業として存立し得なくなることもあり得ます(なお、知的財産については、別途、特許侵害訴訟や技術流出、パテントロール対策などをまとめて知財リスクと整理することもあります)。訴訟リスクは日本国内においてはそれほど大きな問題と認識されませんが、日本に比べて訴訟の多い欧米の企業では、最も警戒されるリスクの一つといえます。

2)不祥事・不正リスク

  不祥事・不正リスクは、読んで字のごとく、社内で重大な不祥事や不正が起こることにより事業活動にさまざまな影響が及ぶリスクです。例えば、会社ぐるみであれば、海外の仕事を受注するために海外の公務員に賄賂を払ってFCPA(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977、連邦海外腐敗行為防止法)違反で訴追され、莫大な罰金を支払うことになるという例もあります。買収先の会社の経営陣が、自分の親族の会社との間で利益相反取引をさせて自分あるいは親族に利益を与える一方、会社に損害を与えていたというような例もまれではありません。当局に訴追されるリスクから、不祥事そのものによる金銭的被害、株価への影響、取引の解消、または人材流出につながるリスクまで、不祥事・不正リスクによる影響にはいろいろなパターンが考えられます。

3)行政処分・サンクションリスク

  行政処分・サンクションリスクは、当局から行政処分・制裁を受けるリスクです。公共事業の受注をメインに営んでいる企業が、談合や贈賄行為などによる行政処分の結果、公共事業への入札停止の処分を受けると、一気に事業活動に影響が出てくることもあります。マネーローンダリングに加担している企業や個人などとの取引なども考えられますが、北朝鮮やイランなどのOFAC(米国財務省外国資産管理室)の制裁対象国との取引などによる制裁などもこれに当たります。2018年12月には、カナダ司法当局が米国の依頼を受けて、香港からメキシコに向かう途中であったファーウェイの最高財務責任者(CFO)である孟晩舟氏をバンクーバー空港で身柄拘束した事件が大々的に報道されましたが、これも、逮捕容疑は、ファーウェイがスカイコムという関係会社を通じて米国の対イラン貿易制裁に違反してイランの通信会社と取引するに当たり、米国の金融機関には、スカイコムはファーウェイとは別会社であると虚偽の説明をして違法な取引に巻き込んでいたためとされています。

4)労務リスク

  日本のみならず、海外においても労務リスクは時として深刻な問題です。労働関連法は国によって大きく異なり、ヨーロッパのように極めて労働者が手厚く保護された政策がとられている地域もあれば、ブラジルなど、労働裁判が簡単に起こせる国もあります。また、新興国では、大規模なストライキで工場が長期に操業できなくなったり、あるいは暴動に発展して従業員の生命・身体の安全に影響が出てくるような深刻な事態に発展することすらあります。2012年、インドのマルチ・スズキの工場において起きた大規模な暴動は覚えておられる方も多いかと思います。本件は、元々は工場幹部による一部労働者の差別的扱いをきっかけとする労働組合承認や非正規従業員の労働条件に関して起きたストライキでしたが、やがて暴徒化し多数の負傷者が出、また放火による火災により死亡者まで出る事態となり、日本でも大きく報道された事案でした。
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