[視点]

2019年4月号 294号

(2019/03/15)

株式対価、そして混合対価によるクロスボーダーM&Aの活性化に向けて

太田 洋(西村あさひ法律事務所 弁護士・NY州弁護士)
  • A,B,EXコース
1 武田薬品工業によるシャイアー買収

 2019年1月8日、わが国企業による買収案件としては史上最大規模の案件(従来は、ソフトバンクによるアームの買収価額総額約3.3兆円の買収が、わが国史上最大規模の買収案件であった)である、武田薬品工業(以下「武田薬品」という)によるシャイアー(ロンドン証券取引所及びNASDAQ上場)買収案件が、無事クロージングを迎えた。
 本件は、総額約6.16兆円という買収対価総額の巨額さもさることながら、①買収対価のうち約半分強の約3兆1300億円程度が武田薬品の株式又は米国預託証券(以下「ADS」という)、残りの約半分弱の約3兆300億円程度が現金であって、わが国M&A史上初めて、買収対価として株式等と現金との組み合わせ(以下「混合対価」という)が用いられた点や、②買収完了直後に武田薬品のADSがニューヨーク証券取引所に上場され、日本企業が、クロスボーダーM&Aを契機に、日本以外のグローバルな資本市場においても株式上場を果たした(なお、本件の結果として、買収後の武田薬品は、世界売上高第19位の製薬会社から第8位の製薬会社に飛躍を遂げた)という点で、非常に画期的な案件である。なお、本件では、買収スキームとしては、(i)武田薬品側における、株主総会決議による募集株式の募集事項の決定の取締役会への委任制度(会社法199条、200条1項)に基づくシャイアー株式の現物出資による新株発行(以下「総会授権方式の現物出資による新株発行」という)と、(ii)シャイアー側における英国王室属領ジャージー諸島会社法上のスキーム・オブ・アレンジメント(英国や豪州、インド始め、英国法系の諸国には広く存在する。以下「SOA」という)とを組み合わせるスキーム(以下「『総会授権方式の現物出資による新株発行+SOA』スキーム」という)が用いられている。
 筆者は、武田薬品側のリーガル・カウンセルとして、本件の一連の取引に関与する機会を得たが、本件を機に、米国における利上げの動きとも相俟って、従来は現金を買収又は統合の対価(以下、単に「買収等対価」という)とする案件がほぼ100%に近かったわが国企業による外国上場企業の買収(ないし外国上場企業との経営統合)案件においても、株式を買収等対価とする取引や、買収等対価を混合対価とする取引が徐々に増加していくものと考えられるので、以下、その点について、簡単に論じることとしたい。


2 株式(のみ)を対価とするクロスボーダーM&A

 1990年代以降、特に米国や英国の上場企業を買収(又は経営統合)対象とする大型のM&A(就中、クロスボーダーM&A)取引では、買収等対価を全て現金とするのではなく、買収会社の株式とする例が多い。
 例えば、(1)英BPによる米アモコの買収(1998年公表。以下、括弧内は全て公表年)、(2)英ボーダフォン・エアタッチによる独マンネスマンの買収(1999)、(3)仏ローヌ・プーランによる独ヘキストの買収(1999)、(4)伊ウニクレディトによる独ヒポ・フェラインスバンクの買収(2005)、(5)仏アルカテルによる米ルーセント・テクノロジーズの買収(2006)、(6)フィンランドのノキアによる仏アルカテル・ルーセントの買収(2015)、(7)米ダウ・ケミカルと米デュポンとの経営統合(2015)、(8)米ディズニーによる米21世紀フォックスの買収(2017)等では、全て、買収等対価として

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