[視点]

2023年8月号 346号

(2023/07/11)

株式対価M&Aを阻害しないための株式交付税制のあり方

大石 篤史(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士・税理士)
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はじめに

 株式交付は、株式対価M&Aを行う上で非常に重要なツールである。株式交付については、これまで広く譲渡損益課税の繰延べが認められてきたところであるが、令和5年度税制改正により、上場会社の創業家などによるタックスプランニングを封じるための措置がとられた。

 しかし、令和5年度税制改正については、その射程が広過ぎる面があり、独立当事者間のM&Aや、正当な事業目的のある創業家内の再編までをも制限しうるという問題がある。また、株式交付と株式交換が似通った組織再編制度であるにもかかわらず、両者の課税関係があまりにも異なり、制度間のバランスを欠いているという問題もある。本稿では、そのような現状認識を踏まえて、株式交付税制のあるべき方向性について若干の考察を試みたい。

株式交付税制の概要

 株式交付とは、株式会社が自社の株式等を対価として対象会社の株主から対象会社の株式を取得することにより、対象会社を子会社化する組織再編をいう。

 これまでは、株式交付に応じた対象会社(株式交付子会社)の株主による株式交付の実施会社(株式交付親会社)に対する株式譲渡については、20%超の現金対価等が含まれるなど一定の場合を除き、株式交付親会社の株主構成にかかわらず、譲渡損益課税の繰延べが広く認められていたところである。

 しかし、この課税繰延べを利用して、上場会社の株式を多数保有する創業家などが、当該上場会社を株式交付子会社、創業家が保有するプライベートカンパニー(資産管理会社等)を株式交付親会社として株式交付を行うことで、創業家が保有する株式を当該プライベートカンパニーに移管するケースが見られた。

 その背景には、上場会社から創業家の個人が配当を受け取るよりも、プライベートカンパニーが配当を受け取った方が、税負担が軽いケースが多いという問題があるといわれている。さらに、上場会社の株式の3%以上を保有する個人株主が上場会社から配当を受領した場合に、受取配当は総合課税の対象となるところ、3%のカウントにあたり、令和5年10月以降はプライベートカンパニーなどの保有分が合算されることになったという点が、この問題をより深刻にしている可能性がある。

令和5年度税制改正

 令和5年度税制改正では、上記のようなタックスプランニングを封じるための措置がとられた(令和5年10月以降に適用)。具体的には、


■筆者プロフィール■

大石氏大石 篤史(おおいし・あつし)
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士・税理士。1996年東京大学法学部卒業、1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2003年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2004年ニューヨーク州弁護士登録、2006年税理士登録(東京税理士会)、2007年経済産業省「MBO取引等に関するタスクフォース」メンバー、2013年経済産業省「タックスヘイブン対策税制及び無形資産に関する研究会」委員、2016年早稲田大学「国際ファミリービジネス総合研究所」招聘研究員、公益社団法人日本証券アナリスト協会「PB職業倫理等審査委員会」「PB教育委員会」委員。M&A、ウェルスマネジメント、一族内紛争、税務等の業務を主に取り扱う。

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