[視点]

2018年8月号 286号

(2018/07/17)

物言う株主、機関投資家と社外取締役の協働へ――東芝事例から見た企業統治改革の方向性

胥 鵬(法政大学 教授)
  • A,B,EXコース
 有価証券報告書の虚偽記載を発端とする東芝の一連の出来事は、日本の企業統治(コーポレート・ガバナンス)の問題点を端的に表す事例である。この事例から、監査人、取締役、債権者、物言う株主などがどのような役割を果たしたかを分析することによって、以下のように企業統治の本質を明らかにする。


1.成熟・衰退企業の撤退

 成熟・衰退企業の企業統治問題が一層深刻化する。衰退企業の効率的な退出が妨げられる理由を以下に挙げている。
 まず、成長の栄光に浸っている大企業は、衰退セグメントから退出しなければならないと知りつつも問題を先送りできなくなるまで座視し続ける。早期改革を実行しようとすれば、社長の座から追われる覚悟が必要である。また、雇用確保という大義名分も、リッチなキャッシュ・フローや外部資金を赤字部門に費やすことで労使間の一時の和平を買って問題を先送りさせる重要な要因である。したがって、経済衰退期に成熟・衰退事業から企業の退出を促すメカニズムこそが企業統治の要である。
 この議論は東芝、NECとソニーのパソコン事業の変遷に当てはまる。東芝は1985年に世界初のノートPCを販売し、一時は世界シェア首位を誇っていた。しかし、コンパック・ショック以降、日本企業は競争力を失ったにもかかわらず、日の丸パソコン事業の統廃合が進まなかった。2004年にIBMがパソコン部門をレノボに売却した後、2011年にNECのパソコン部門がレノボに統合され、続いて2016年に富士通も事業売却を実行した。2014年、物言う株主サードポイントのパソコンやDVDレコーダーなどの不採算事業の見直し要求については明確な返答をしなかったソニーは、PC事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡した。東芝は虚偽記載が露見してからようやく2018年6月にパソコン子会社を鴻海傘下のシャープに売却した。


2.内部ガバナンスの失敗

 バイセル手法で売上高を上回るパソコン部門の営業利益が

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