[M&A戦略と会計・税務・財務]
2014年7月号 237号
(2014/06/15)
はじめに
M&Aは難しいとよく言われる。過去に公表されている幾つかのアンケート結果によれば、成功したM&Aは全体の2割ほどと言われている。複数のアンケートにおいて、同じような水準の結果になっているので、ほぼ間違いないところなのであろう(なお、「成功」「失敗」の定義が不明確な点はお許し願いたい)。このようなこともあり、M&Aの難しさ、なかんずく、買収後の経営の難しさは皆さんが十分に理解するところであるが、何故難しいのかについて、本稿では、バリュー・チェーンを利用して議論してみたい。なお、本文中の意見に関する部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りする。
ご存知の方も多いと思うが、バリュー・チェーンは、後述するように、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーターがその著書「競争優位の戦略」(1985)(以下、「競争優位の戦略」という)において解説した企業の競争優位の源泉分析(すなわち、内部分析)のためのツールである。日本語翻訳版で600ページ以上の大著であり、内容を十分に理解するのも難しいところもあるが、経営者(或いは、事業買収者)が事業を分析するにあたり、当該事業の競争優位性、或いは、他社との差別化要因がどこに存在しているのかを理解するための良いツールとなる。なお、「競争優位の戦略」では、幾つかの業界に関する分析事例(耐久消費財メーカーや航空会社等)も掲載されているので、これらを参考として自社事業や競合相手、或いは、読者の方々が所属されている業界について分析してみるのも面白いと思う(意外な発見があるのではないかと思う)。
そもそも、M&Aにおいては、買収対象企業(事業)の資産の取得が目的なのではなく(幾つかのケースでは、対象会社の保有する特許等が目的となるケースもある。研究開発型のベンチャー企業の買収などはそのような事例であろう)、事業そのものの取得が目的であるので、事業分析(一般にデュー・ディリジェンス、或いは、DDと呼ばれる)が非常に重要となる。一般に、事業分析は外部分析と内部分析により構成される。外部分析は、市場環境分析等を中心としたものであり、当該分析のためのデータ等については、必ずしも対象会社から入手する必要がない。一方、内部分析に必要なデータ等は、原則として、対象会社を通じてのみ入手可能である。したがって、内部分析については、対象会社側に主導権があり、買い手側の作業にデータを開示することで協力するものの、買い手側からすれば、その分析結果には大きな限界が存在していることは明白であろう。
*Cコース会員の方は、最新号から過去3号分の記事をご覧いただけます
マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。
[【バリュエーション】Q&Aで理解する バリュエーションの本質(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)]
――4月1日「オリックス・クレジット」から「ドコモ・ファイナンス」に社名変更
[Webインタビュー]